第97話 移動要塞を造ろう スキルの拡大解釈もいい加減にしろ

 クララとガブルス軍曹が楽しく狩猟をしている一方。

 駐屯地では、六駆が中心になって移動要塞いどうようさい造りが始まっていた。


 と言うか、移動要塞造りってなんだ。


 米作りみたいな響きで移動要塞を造るな。

 逆神流のスキルが危険視されるであろう理由はもうこれまでの六駆くんの行動で充分なので、これ以上自分から危険指数を上げに行かなくても良いじゃないか。


 だが、反乱軍の侵攻のためには移動手段は不可欠。

 我々は今回も、逆神六駆のやりたい放題を眺めるしかないのである。


「六駆くん、要塞ってどのくらいの大きさなのかなぁ?」

「んー。50メートルくらいの円柱形で考えてるんだけど。狭いかな?」


「どうなんだろ? あっ! ねね、シャワー付けて欲しいなぁ!!」

「えー。面倒だなぁ。まあ、莉子が言うなら作るけどさ」


「やったぁ! 女の子は体を清潔にしておきたいものなのぉ! 六駆くん、さすがぁ!」

「なるほど、勉強になるなぁ。よし、とりあえず煌気力場オーラフィールドはこれで良しと。南雲さん!」


 六駆と莉子の会話を聞きながら「何言ってんの、この子たち」と思いながら、最終的には空に浮かぶ雲を眺めてコーヒーを飲んでいたところ、急に名前を呼ばれて彼の思考力は現実に帰って来た。


「あ、ああ。どうした? 何か問題か?」


「いえね、材料に駐屯地の鉄でできた資材を貰いたいんですけど、交渉してもらえますか? 僕、その手の話し合いって苦手なんですよね」

「なるほど。分かった。キャンポム司令官を呼ぼう。それで、どの程度の鉄が必要なのか教えてくれる?」



「1トンくらいあれば余裕です!」

「ぶふぅぅぅぅぅぅっ!!! それ、多分この駐屯地の鉄全て集めたくらいだぞ!?」



 異世界でも元気にコーヒーを噴く男、南雲修一。

 キャンポム司令官を呼び出して、グーパンされないか少し怯えながら事情を説明した。


「なるほど。俺たちの指揮権は既にあなた方に移譲しています。好きに使って頂きたい。必要なものを運び出すので、1時間ほど頂けますか?」


 物分かりの良すぎるキャンポムの言葉を受けて「もちろんだ」と答えた南雲。

 そのまま、通信機の向こうに語り掛ける。


「山根くん。山根くん。私、なんだか新たな世界が拓けそうなんだけど。スキルで移動要塞って作れるものなの?」

『知りませんよ。と言うか、逆神くんがやるって言ったらやるでしょ。後学のためにサーベイランスで撮影させてもらったらどうです?』



『まあ、見ても再現できないでしょうから、完全に思い出としての映像ですけど』

「君は人の持つ可能性をへし折るのが上手いなぁ」



 それから1時間が経ち、調理道具や照明、武器に弾薬、その他諸々を反乱軍のみんながせっせと運び出し、鉄のテントは六駆が作った煌気力場オーラフィールドに集められていた。


「逆神さん。これで足りるだろうか? 何なら、俺たちの鎧や武器も差し出しますが」

「いえいえ。やりくりしますよ。キャンポムさんたちも身ぐるみ剥がされちゃ戦えないじゃないですか。戦力として計算してるんですから、闘志燃やしとして下さいよ!」


 キャンポムは「お心遣い、痛み入る」と敬礼した。

 六駆も高等スキルを使うのは久しぶりなので、両腕をグルグルと回して、入念なストレッチに余念がない。


 なお、スキルとストレッチに因果関係はない。

 六駆が「これから僕、何かやっちゃいますよ!」とアピールしているだけである。


「……さあ! やるか!! ふぅぅぅんっ! 『極大・創造構築テラ・クリエメルト』!!」


 それから起きた現象に、現場に居合わせたものたちはすべからく唖然としたと言う。

 鉄の資材がドロリと溶けたかと思えば、次の瞬間には要塞の骨組みへと変わっており、まさに神が建造物を創造する様を見せられているようで、ルベルバック人の中には涙を流して拝む者までいたらしい。


 山嵐と梶谷は「もう現世に帰ったら探索員辞めよう」と思い、加賀美は「まだまだ自分も修行が足りないな!」とポジティブに奇跡を目撃した。


 莉子は「まあ六駆くんだし、このくらいするよね!」と、みんなに驚かれる彼を見てなんだかご機嫌な様子。


 帰って来い、莉子。

 もう君はそっち側の住人になってしまったのか。


 バチバチと音を立てて、巨大な光の玉に包まれた鉄の資材。

 それを六駆が鼻歌交じりに何やら操作をすること、約5時間と少し。


「終わりました! 地面に落ちるんで、揺れにご注意ください!! そぉぉい!!」


 ゴォンと地響きを轟かせて、鉄の要塞が姿を見せた。

 ピンクをベースに赤と黒の模様が稲妻のようにジグザグの軌跡を残しており、何人かが反射的に莉子を見た。


 正面には3基の砲門が備え付けられ、代わりに車輪やキャタピラーのようなものは見当たらなかった。

 六駆いわく、「煌気オーラでホバークラフトみたいに浮くんで!」だそうだ。


 最後に特記事項として、正面と後方に大きな金色の文字で「莉子」と描かれている事を伝えて、移動要塞建造リポートを終えようと思う。


 当然のことながら「どうしてわたしの名前を書く必要があるのかなぁ!?」と、六駆が莉子に15分ほど怒られる事になるのだが、いつもの事なので割愛する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆は上官である南雲に尋ねた。


「こんな感じに仕上げましたけど、どうですか? 一応、全属性の攻撃スキルは弾きますし、物理攻撃に関しては10トントラックの正面衝突くらいなら耐えられるように造ったんですけど」


「……うん。私は、君の事をどうやって協会から守ろうか、それを考えるのに今必死だよ。私が君に会えたのは幸運だったが、君も目を付けた監察官が私で幸運だったね」


 そのあとに続く「普通の監察官なら絶対さ。君の家、潰しているもの」という言葉は飲み込んだ。

 六駆を刺激して得るものなどなにもないからである。


「じゃあ、ルベルバックの皆さんは、どうぞ中に荷物やら何やら、運び込んじゃってください! 2階建てになってるんで、下の階が軍用。上の階が居住空間って事でお願いしまーす!!」


 そう言うと、六駆は「やれやれ」と近くにあった岩に座り込んだ。

 さすがの彼でも、高等スキルを使うと疲れる。

 真夏の炎天下、徒歩10分のコンビニまで歩いて行った程度の疲労が彼をむしばんでいた。


「はいっ! 六駆くん、お疲れ様! お水もらって来たよぉ!」

「ああ! ありがとう! ちょうど喉が渇いてたんだよ! 莉子は気が利くなぁ!!」


 南雲は、六駆と莉子のやり取りを目に焼き付けていた。

 こうして見るとただの高校生カップルにしか見えないので、それを見続けていたらもしかして普通の高校生カップルにならないかな、などと考えていた。


 南雲が現実から逃れようとしている間に、食料調達に出掛けていたクララと芽衣のガブルス斥候隊も戻ってきて、それなりに驚いたリアクションを取るチーム莉子の2人と、「はーははっ!! 意味が分からない!」と思わず笑いだすガブルス。


 これにて、侵攻の準備は完了。

 目指すは帝都・ムスタイン。

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