第96話 椎名クララ&木原芽衣と斥候部隊出動 ルベルバック北西部・ハルバ森

 ひとまず探索員チームとルベルバックを取り戻したい現世侵攻軍。

 面倒なので、今後は反乱軍呼びで統一しようと誰かが言った。


 反乱軍の行動指針を決めようという話になるのは、当然の流れだった。


「まずは、位置関係の確認から行おう。小坂くん、良いだろうか?」

「ふぇっ!? わ、わたしはもう、監察官の言う通りにします!!」


「ダメだよ、莉子。ちゃんと探索員チームの代表として意見を言わないと。いくら相手が偉いおじさんだからって、そのおじさんが間違えないとは限らないんだよ」


 さすがは南雲よりも精神年齢おっさんな六駆おじさん。

 言う事に説得力があり過ぎる。


 君は精神年齢の割にすぐ間違えるからな。


「逆神くんの言うとおりだ。現世でも言ったが、忌憚きたんなき意見を頼む。私も現場へ出るのは久方ぶりだし、異世界に来るのも3年ぶりだ。ブランクは隠せない」


『南雲さん、3日でコーヒー噴きまくってズボン3着クリーニングに出しましたもんね! ズボンの股間を汚すようになったら立派なおっさんですよ』



「山根くんはどうしてそんな言わなくても良いこと言うの?」

『通信機の感度チェックをしておこうと思いまして。良好のようですね。オーバー』



 南雲はひとつ咳払いをする。

 その咳払いで過去をなかった事にしようと試みた。


「まず、阿久津あくつ元探索員がどこにいるのかを知るべきではありませんか?」

「おっ! さすがAランク探索員! 加賀美さん言う事が違う! 痛いっ!!」


「六駆くんはこっちで大人しくしとこうねー。意見を求められたら発言するにゃー」


 クララさん、意味のあるゲンコツで六駆くんを黙らせる。

 加賀美の質問には、キャンポムが答えた。


「帝都・ムスタインにある、皇宮だと思われます。帝都までは、ここからですと少々距離があります。こちらが地図です」


 キャンポムの地図から推測するに、ルベルバックの北西部にある現在地から帝都・ムスタインまでは、だいたい120キロほどだろうと南雲が解析した。

 目的地が判明すれば、続けて必要なものが出て来る。


「移動手段と、あとはご飯とかですよね。必要なのって」

「うん。そうだな。小坂くんの指摘は正しい。給仕長のええと、君は」


「ヘンドリチャーナです」

「長い名前だね。では、ヘンドリくん。食料の備蓄はどの程度あるのだ?」


「正直、我々も数日分の貯えしかありません。異界侵攻は素早く行われ、その後の食料や飲料水は現地で調達せよとの指令でしたので」

「六駆くん、六駆くん。何か名案はないかなぁ? いつもみたいに!」


 名前を呼ばれて、ハブられていたおっさんが嬉しそうに発言する。


「移動用の乗り物を作ればいいの? できる、できる! 半日くらい時間もらえる?」

「わぁ! 良かったぁ! 南雲さん、いかがでしょうか?」


 南雲はうんうんと頷いて、答える。


「君たちのいつも通りが脅威なのにはもう慣れて来た。半日でこの大人数を運ぶ手段があるのかね? それもどこか別の異世界の技術か?」



「そうですね。ものつくりが好きな祖父のスキルで、移動要塞を作ろうかと」

「うん。移動要塞。……移動要塞なの!? 私の中では車とかだったんだけど!?」



 とりあえず、移動手段は六駆が何とかすると言う。

 問題の多いおっさんだが、彼が出来ない事を「できる」と偽った事はないため、莉子は自信を持って言い切る。


「六駆くんに任せておいてください!!」


 続いて、食糧問題について話し合われた。

 この近くにハルバ森と呼ばれる場所があるとキャンポムは答えた。

 そこには、水源もあり、また木の実や動物も多いため、食料も飲料水も確保できるだろうと続ける。


「ならば、その任は我らにお任せ下され! ガブルス斥候隊が調達して参ります!!」


 正直な姿勢に定評のあるガブルス軍曹、ここぞとばかりに立候補する。

 キャンポムも「彼ならば適任でしょう」と同意した。


「現世の人間も何人か出さなければなるまい」


 南雲の発言は「ルベルバックの皆さんにばかり面倒をかけるのは申し訳ないですよ」と言うニュアンスだったが、「万が一の反乱に備える」という側面もあった。


 ここは異世界。

 そして、彼らルベルバック反乱軍にとっては地元。

 何がきっかけで謀反を思いとどまるか、それがないと言い切れる保証はないのだ。


「じゃあ、うちの優秀な狩猟担当を貸し出しますよ。行けますか? クララ先輩」


 南雲の意図を理解した上で、六駆はクララを推薦した。

 彼女はぼっち……ソロ活動期間が長いため、万が一の事態にも対応できるだけの器用さを持っている。


「お任せだにゃー! 芽衣ちゃんも一緒に行く? 修行になるよー!」

「うっ。……行くです! 行って、椎名先輩の雄姿を後世に語り継ぐです!! 勇敢に散っていったと語り継ぐです!!」


 こうして、狩猟チームはすぐに準備を整え、駐屯地から出発した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ハルバ森は駐屯地から5キロ程度の距離にあり、1時間もしないうちに到着する。


「クララさん! 我らはまず水を汲みましょう! クルルックと言う名の鳥型モンスターが襲い掛かってくるので、迎撃を頼めますかな?」


「あいあーい! 了解! ガブルスさんたちだけで水ってどのくらい1度に運べる感じですかー?」

「我らの装備にものを圧縮して保管する装置がありましてな。これを使えば、1000人が1週間を優に過ごすだけの量が採れるのですよ!」


 ルベルバックは科学技術が現世の数倍発達している国である。

 クララに難しい理屈は分からなかったが、目の前で湧水が勢いよく吸い込まれていき、その先にある四角い容器が満タンになるとサイコロくらいの大きさになる様子を見て、「すごい技術だにゃー」と感心した。


「みみみっ! 椎名先輩! 大きな鳥がいっぱい来たです!! 『幻想身ファントミオル』!!」

「芽衣ちゃんはすぐに回避行動に出るんだからー。平気だよー。『サンダルパラライズアロー』!! 連続でぇ!! せやっ、せぃやぁーっ!!」


 クララの矢を喰らって、ドサッと巨大な怪鳥が落ちて来た。


「あっははー! 変な顔の鳥ー! ガブルスさん、これ美味しいの?」

「見事な腕前ですね! クルルックは蒸し焼きにすると絶品ですよ! スープにしても良い出汁が取れますし、捨てるところのない食材です!」


 クララは「それじゃ、いっぱい狩っとかなきゃー!」と、上空から襲い掛かって来る怪鳥を次々に射貫き、地面へと落とす。

 スキルに麻痺を付与させていることで、絶命させずに捕獲し、そののち斥候隊の人間が新鮮なまま処理をするという見事な流れ作業を展開してみせた。


 その手際には、ルベルバック人である斥候隊からも拍手が起きる。


「椎名先輩は異世界の方がなんだか生き生きしているです。すごいです」

「にゃっははー。それ、ミンスティラリアでも言われたー! あたし、異世界向きなのかもだねー!! よし、もっと狩るぞー!!」


 芽衣は「異世界向きと言うか、現世が合わないじゃ……」と思ったが、口に出さない優しさを見せる。

 食料調達チームは順調な様子であった。

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