異世界転生6周した僕にダンジョン攻略は生ぬるい ~異世界で千のスキルをマスターした男、もう疲れたので現代でお金貯めて隠居したい~
第87話 監察官と悪魔の作戦会議 お前ら働け、山嵐組とファビュラスダイナマイト京児
第87話 監察官と悪魔の作戦会議 お前ら働け、山嵐組とファビュラスダイナマイト京児
ダンジョンと探索員の知識ならお任せの莉子ペディアさん。
月刊探索員の愛読者、クララさん。
伯父が監察官の芽衣ちゃん。
チーム莉子の常識人3人は、南雲をすぐに認識した。
「ろ、ろろろ、六駆くぅん!! この人、とっても偉い人だよぉ! 監察官!! 探索員協会の意思決定をする8人のうちの1人だよぉ!!」
「六駆くん、さすがにまずいにゃ! いつもの調子で絡んじゃダメだぞな!! クララパイセンだって空気読むくらいの相手だよ!!」
「み、みみみみみみみみっ! みみみみみみっ!!!」
これがDランク、Cランク、Fランク探索員が監察官に遭遇した時の正しいリアクションであり、さすがはチーム莉子。礼儀作法をよく知っていた。
「あ、あの、どうして監察官がダンジョンに潜られているんでしょうか?」
「えっ。ちょっと待って。君たちは、侵攻されてるって理解して戦っていたんだよね?」
「あ。はい。異世界から悪い人たちが攻めて来ていたので、わたし達で食い止めておきました」
南雲は思った。
「なにこの落ち着き方!? 異世界から軍隊攻めて来てこんなメンタル保てる!?」
知恵者で勇名を馳せる監察官と言えど、与えられていない情報までは推理の材料に加えられない。
チーム莉子が異世界に到達している事は改ざん済み記録石との格闘によって解析済みだが、まさかそっちで1ヶ月以上も過ごしていたとは知る由もないのだ。
その結果、莉子たちの「異世界慣れしている感」が、南雲にとっては脅威だった。
だが、裏を返せば、その脅威が味方として計算できる。
これは僥倖と言い換えよう。そう南雲は考えた。
「ところで、隊長さん? もう知ってる情報は全部吐きましたか? 出し惜しみしていると、ちょっと良い紙使ってある雑誌で指を切りますよ?」
8人しかいない監察官をガン無視して尋問を続行するのが六駆のロックなスタイル。
と言うか、なんだその脅し文句は。
手に持っている『
「ふふっ。我らの情報が漏れたところで、ルベルバック軍の圧倒的優位に変わりはない! さあ、なんでも聞くが良い! できるだけ丁寧に答えてやろう!!」
こちらは、どうして斥候部隊の司令官に任命されたのか分からない、ルベルバック軍所属のガブルス軍曹。
当初はうっかり情報を漏らしていたが、今は積極的に漏らしていた。
ガブルス家の家訓は「聞かれた事には正直に答えましょう」である。
小学生の今月の目標だろうか。
その後、六駆の速やかな事情聴取でガブルス軍曹から搾り取れるだけ情報を入手した。
採れたて新鮮な情報を元に、作戦会議が開かれる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
六駆が喋ると面倒だと言う共通認識を持っているチーム莉子は、かつてない程の結束力をもって南雲監察官に情報を伝える。
「ええと、小坂莉子です。一応、パーティーのリーダーです。発言してもいいでしょうか?」
「ああ、かしこまらないでくれ。君たちの
「あらら、話が分かるじゃないの! まだ若いのに、感心だなぁ! 痛いっ!!」
「六駆くん? クララパイセンもたまには手が出る事もあるんだよ?」
クララにゲンコツを喰らった六駆、しょんぼりする。
若い子に冷たくされると、おっさんはそれはもうしょんぼりする。
必死で平静を装うけども、内心は涙雨で冠水状態である。
「異世界の国の名前はルベルバックで、現世の侵略が目的だそうです。国王に現世の情報を与えた協力者がいるらしくて、もしかすると探索員なんじゃないかって六駆くん、あ、すみません、逆神探索員が推測しています。とりあえず、日須美ダンジョンには80人くらいの中隊が攻め込んできているらしくて、異世界にはルベルバック軍が数万人規模で待機しているとのことです。それから——」
「すまない。ちょっと私も、まさかそんな怒涛のように情報を与えられると思ってなかった。5分、いや3分ほど時間をくれ。整理するから」
南雲の思考力は、過剰なストレスにさらされながらも正常だった。
1つ。ルベルバックは明確な敵意を持って現世へと攻め込んできている。
過去にもこのような事例はあったが、探索員の能力が上がり、高ランク探索員を多く輩出するようになった近年では珍しい。
2つ。現世に詳しい者が彼の地に存在する可能性がある。
あくまでも探索員の推論の域は出ないが、そう考えるとここまでスムーズに侵攻を行い、なおかつ敵軍に恐れや不安が希薄な事も説明がつく。
3つ。日須美ダンジョン内だけでも、既に100人に迫る軍勢が存在している。
監察官室で確認した時にはまだ60人程度だったはずが、増えている。
これはつまり、異世界の側では戦闘態勢が整っている事を示していた。
「……とんでもない事態だな。やはり、私が出てきて良かった」
南雲1人でもルベルバック軍の相手をする事は可能、もっと言えば余裕である。
だが、それでは対応が後手に回る。
現場の指揮をしながらと言う前提になると、少々台所事情が苦しくなるのは確か。
『南雲さん。なんか監察官の風格漂わせてるところに恐縮なんですけど』
「山根くん。あんまり聞きたくないけど、とりあえず私ね、今まさに、コーヒー飲もうとしてるんだよ。ほら、君が用意してくれた水筒に入ってるヤツ」
『敵の数が120を超えました。多分、10分おきに増えますよ』
「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
南雲監察官はダンジョンでもしっかりとコーヒーを噴いた。
山根くんの与える凶報は止まらない。
『あのですね、ついでに言っときますと。今、第16層にチーム莉子が押し戻してくれた軍勢が帰って来てます。手を打たないと、すぐにそこまで来ますよ』
「君は本当に人のメンタルを傷つけるのが上手いな。コーヒーじゃなくて第一三共胃腸薬プラス持って来れば良かった」
さて、ここまで静かにしていた六駆おじさん。
満を持して、発言を求めるべく手を挙げた。
勝手に口を開くとパーティーの若い子に嫌な顔をされるため、急場をしのぐべく常識を身に付けたのだ。
「あ、ああ。逆神くん。どうした? 何か意見があるのか?」
「意見と言うか、お話を聞いてて現状取るべき最低限の手段を具申したいと思うんですが」
「聞こう。言ってくれ」
「うちの莉子が言ったんですよ。過剰に刺激すると、敵軍の本陣が乗り込んできて面倒なことになるって」
「うん。そうだな。私も小坂くんの意見に賛成だ」
「ですけど、このままだと無為に陣地を取られて、
「うん。殲滅を億劫とか形容する人は初めてだが、言わんとしている事は分かる」
「ですから、こっちも鼻くそみたいな戦力でも良いんで、投入するべきかと」
「それは私も考えていた。しかし、逆神くん。控えめな考えは美徳だが、自分たちの事をあまりにも過小に申告するのは時として愚か者の烙印を押されるぞ?」
「いえ。鼻くそって、そこにいる鼻嵐くんと梶谷くんのパーティーの事ですよ? やだなぁ! 僕たちが鼻くそな訳ないでしょう! 捨て駒にしましょう、鼻くそを!!」
南雲監察官は頷いた。
なるほど、確かに理にかなっている。
その上で思った。
「この子、悪魔かな?」と。
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