第27話 椎名クララの真なる実力 御滝ダンジョン第9層
第9層へと下りて来たチーム莉子を、早速モンスターが出迎えた。
実はこれまでの他の探索員が攻略して来た最新到達地点が、1つ前の第8層。
つまり、この階層からはチーム莉子が最前線の攻略パーティーになる。
結成1週間と少しのルーキーたちが先頭に立つのには、もちろん理由があった。
まず、イレギュラーの多い御滝ダンジョンは、どうもベテラン探索員からは敬遠されているらしく、実績のある攻略組がこぞって不参加。
腕試しにやって来た若手やルーキーが多く
そのうち「あのダンジョンはやべー」と噂が立ち始めて、攻略しようとする探索員が激減していた。
当然、その事実をチーム莉子は知らない。
「ハウルライオネット! 六駆くん、ヤバいのがいる! あの顔が3つあるライオン!!」
「うん! 確かにキモいね!!」
「そうじゃないよぉ! あれ、ダンジョンモンスターランキングのトップ100に入ってるヤツ!」
トップ100って意外と多いじゃないかと思われることなかれ。
国内のダンジョン数だけでも既に90を超えており、視野を世界に広げるとダンジョン内に生息するモンスターは1万種類オーバーとも言われている。
日々新しいダンジョンが生まれ、そこに新種のモンスターが巣食うので、ランキングは常に変動するが、1度でもトップ100に入れば最低でもBランク探索員でなければ対処できないだろう。
ならば、いつものパターン。六駆おじさん無双で解決。
莉子はそう考えていたようだが、六駆とクララは違う。
「それで!? 世界の美味しいイドクロア百選に入っている何とかライオン! さぞかしお高いんでしょう?」
「全然わたしの話を聞いてないよね!? 残念でしたー! ハウルライオネットは、ギランリザードと同じ系統! 全身に冷気を
まず、六駆がやる気を失った。
莉子は前の階層のスパルタ特訓の腹いせのつもりで六駆のやる気をへし折って、一瞬の気持ちよさを得るも「あ! ダメじゃん! この人に戦わせないと!」とすぐに気付く。
「し、師匠? わたし、また新しいスキル覚えたいなぁー?」
「静かに! 今、つま先立ちで何秒耐えられるかタイムトライアル中だから!!」
六駆おじさん、戦意喪失。
莉子にしては珍しい凡ミス。
今回の探索は長時間に及んでいるため、聡明な彼女も集中力が切れかけているらしい。
「ふっはっはー! 莉子ちゃん、安心して! ここはクララ先輩に任せるにゃ!」
「ふぇ!? いくら先輩でも、ハウルライオネットは無理なんじゃ!」
クララはCランク探索員である。
そして、Cランクに未成年で到達する探索員は極めて少ない。
彼女がほぼソロでダンジョンに潜れていたのはその実力の証明であるが、通常、ランクと言うものはそんなに簡単に上がるものではない。
巨大蜘蛛、別名リコスパイダーを倒した六駆のランクが据え置かれているのがその証拠。
ならば、クララはいかにしてその若さでCランクへと登り詰めたのか。
実は、ハウルライオネットを過去に1度、討伐しているのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
クララは過去の功績を自慢するような娘ではないが、この場合は端的な情報共有が肝要と見て、2人に事実を伝えた。
「す、すごい! 1人でですか!?」
「ふっふー! すごいでしょ? だから、ここはあたしにお任せにゃー! 2人とも疲れてるだろうし、パイセンを頼ってくれたまえよ!」
言い終わるとクララは戦闘態勢へ。
六駆は状況を見守る構え。
莉子は心配で仕方がない。
「さあ、行くぞ! 『ストーンバレット』!! もう1回! 『ストーンバレット』!!!」
ハウルライオネットは莉子の説明通り、全身から冷気を噴き出しており、それは火のついた武器をも凍りつかせる。
必然、クララの放った
「なるほど! クララ先輩、考えたなぁ!」
「勝手に納得してないでわたしにも説明してよぉ! おじさんってそーゆうとこあるよね!!」
「どうして僕は今怒られたんだろう。いや、見てたら分かるよ。クララ先輩、ぶっちゃけあのモンスターに単身で勝てるレベルじゃないけど。これは本当に経験値の差と、あとは発想の柔軟さが素晴らしい!」
「もぉ! 意味分かんない! おじさんってだから嫌なの!」
「ええ……」
ここまでの物語で六駆にダメージを負わせる唯一の女子、莉子さん。
今回も六駆に効果はバツグンな一撃を与えて、クララを見守る。
「換装!
クララが普段使っているものよりも二回り大きな弓が具現化される。
そこで六駆は察する。
クララはソロで戦っていたため、必然的にショートボウによる近距離射撃スタイルにならざるを得なかったが、本来彼女が輝くのはロングレンジからの狙撃であると。
「どっせぇぇぇい! 『
「うむ。お見事!」
「なに!? どーゆうこと!? まだ何も起きてなっ! わぁ!」
ハウルライオネットは冷気で凍らせたものを捕食する習性を持つ。
知能が低いため、それが
クララが初手で放った『ストーンバレット』が未だに宙に浮いているのはそのためである。
クララの放った連続する『ヘビーアロー』は、一射目が浮いている
先を行く
それだけでは致命傷に至らない。
それはクララも知っていた。
だからこその『
刺さった『ヘビーアロー』に二射目の矢が重なり、ライフル弾のように回転するそれは、少しずつ、しかし着実にハウルライオネットの命を削っていく。
「ガゴォオォォォォォォォンッ」
絶命の声を轟かせたのち三つ首の魔獣は倒れると、己の冷気で急速に体を凍らせて、数秒経つとキラキラと光る粒になって消え去る。
「どやさー! 見たかね、莉子ちゃん! 逆神流スキルじゃなくても、戦えるのだっ!」
「すごいです! クララ先輩! とってもカッコ良かったです!!」
「いやいや! 本当にお見事です!」
再び大金星を挙げるクララ。
同一モンスターは何度倒しても評価点にならないのが惜しまれる。
六駆はハイタッチする彼女たちを眺めて、理想のパーティーを思い描いていた。
クララは後衛で輝く。
莉子は現状、中距離の風スキルを覚えている。
六駆は彼女を中距離メインのオールラウンダーに育てる方針。
そうなると、もう1人。
前衛を担当する、アタッカーが欲しい。
そこに回復役がいればもう言う事なしなのだが、一気にそこまで求めるのは強欲というもの。
どこかで優秀なアタッカーをスカウトできれば、チーム莉子は一応の完成を見るのだが。
「あーっ! 六駆くん! 今、わたしたちの事、やらしい目で見てたでしょぉ!?」
「ありゃりゃ、六駆くんもまだ男の子の心が残っていたかー!」
「言い掛かりにもほどがあるなぁ……」
珍しくマジメに弟子の未来の設計図を考えていたら、その弟子にあらぬ疑いをかけられる。
えん罪なのに日頃の行いが邪魔をして反論できない六駆おじさんだった。
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