第16話 チーム莉子の新人 御滝ダンジョン第4層

 莉子からクララのパーティー加入の報告を受けた六駆。

 「反対されたら勢いで押し切ろう!」と構えていた莉子だったが、意外にも六駆は「良いじゃない! 元から経験のある人は欲しかったし!」と好意的な反応。


 これには理由があった。

 六駆の隠居できる準備が済めば、莉子とはたもとを分かつ事になる。

 そうなった時、彼女が独りにならないように、どこかで信頼できる仲間は増やすべきだと考えていた。


 おっさんは意外と面倒見が良い。師匠になればおなのこと。

 諸君もおっさんに救われた過去が100や200はあることだろう。

 過剰な表現であった。1度くらいはあって欲しい。


 とにかく、六駆には彼の思惑があるため、クララの加入は願ってもない事だった。

 1つの手続きが済めば、景気よくファンファーレでも鳴らしたくなるのが人情。

 六駆がよく鳴く、とっておきを用意していた。


「はい。どうぞ。謝罪の言葉を」


 薄情者コンビ、無事に地獄のような苦しみから帰還する。

 放っておけば種類豊富な地獄巡りツアーに直行だったので、10分のお試し体験で済んだことは彼らにとっても幸運だった。


「ほんっとうに! この度は、あたくしめの不義理な行いで、あなた様を危険にさらしてしまい、申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁ!!!」

「先に逃げようと言い出したのはこのわたくしでございます! 煮るなり焼くなり、どんな処罰でも受けて入れますぅぅぅ! ごめんなさい! ずびばぜん!!」


 『吸収スポイル』で吸い出したのは毒素だけだったのだが、もしかすると腐った性根も吸い出していたのかもしれない。

 薄情者コンビの謝罪は真摯に見え、六駆の溜飲も少しは下がった。


 異世界で幾度となく味方に裏切られる経験をした六駆にとって、人としての義理と人情は最も大切にすべき事だと心得ている。


「あっははー! いーよ、いーよ! こうしてあたしも生きてるし! 2人も生きてるし! 助けてくれたの六駆くんだし! じゃあ、この話はおしまーい!!」


「それだけですか!? 僕、重力操作して2人の背中に5キロずつ重りを載せていきますよ!? もう限界って叫ぶ2人に、ここがスタートだよって笑いかけますよ!?」

「それはやり過ぎだよぉ! 粘土を口に詰めるくらいにしてあげて!」


「いーの、いーの! 実際、あたしが勝手に飛び込んだだけだし! 湿っぽいのは嫌いだから、以後この話は禁止で!!」


「ね、姉さん! オレら、姉さんに一声かけてもらえれれば、すぐに駆けつけますんで!」

「押忍! 盾にでも使ってください! これ自分たちのIDっす!!」


「はーい! あんがと! 帰り道、気を付けるんだよ? グアル草撒いておいたから、それを頼りに帰ってね!」


 クララの心も莉子に匹敵する清らかさであった。

 善人が過ぎる事を六駆は心配するが、この場で言う必要はないので沈黙を貫く。

 薄情者コンビ改め、クララの舎弟になった2人は疲労困憊のため地上へ。


 チーム莉子はさらに階層を進む。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「わっ! 第4層、意外と普通で安心したよぉー」

「2層で蝙蝠こうもりに襲われて、3層ではデカい蜘蛛くもだったからね。やれやれ。やっと金目の物を探すのに専念できそう! 4層まで来たら何かあるだろ!!」


 すると早速モンスター様が登場する。

 莉子ペディア六駆の生命線で情報を引き出すのが彼のルーティーン。。


「エバラウシドリだね。イドクロアは持ってないけど、焼いて食べると美味しいらしいよ!」

「そう言えば、腹が減ったなぁ。弁当にしようか」


「ちょい、ちょい! ここは新人のクララお姉さんに任せて! オカズを一品調達してくるでありますよ!!」


 そう言うと、クララは素早くアームガードの源石を交換すると、アームガードが弓に変形した。


「おお! なにあれ! 隠れスキル!?」

「違うよぉ! あれは具現化スキルで、装備が必要なスキルを撃つときに使うんだよ」

「へぇー。また、効率の悪い事をしてるなぁ」


 むしろ、この効率の悪い探索者育成システムで異世界までたどり着ける猛者がいる事に六駆は驚きを隠せない。

 探索課の上層部に無能がいるようだなと結論付けて、食事の前に無為な考えは無力。


 代わりに、六駆はふりかけを白ご飯にかけた。


「あれ、六駆くんのお弁当、今日はご飯だけ? この前はキャラ弁だったのに」

「クソ親父が寝坊しやがったんだ。ご飯だけ弁当箱に詰めてきやがった」

「あ、あははー。おかず分けたげよっか?」


 彼はクララの様子を見て「いや、その必要はなさそうだよ」と莉子に伝える。


「『パラライズアロー』! もう一発!! おー! 命中ー! 見てたー? 2人とも!!」


「お見事! よし、さばこう!!」

「うぇぇ? あのモンスターを捌くの!?」

「だって、美味しいんでしょ? 捌くともさ! 平気だよ。異世界で慣れてるから!」


 そう言うと六駆は『光剣ブレイバー』のスキルで、異世界の名工の作った刀を召喚する。

 これが正しい武器の出し方。具現化なんて面倒な工程はすっ飛ばすに限る。


 まさかエバラウシドリも、そんな由緒正しい刃物で解体されるとは思わなかっただろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ほら。焼けたよ、莉子」

「わぁ! ありがと! それにしても、本当に六駆くんは色んなスキルを使うね。今使ってる焚火もスキルかな? それも異世界産?」


「ああ、これはじいちゃんが作ったスキルで『鬼火おにび』って言うんだよ。鬼さえも焼き払うらしいけど、使い勝手が悪くてねー。基本僕は焚火に使ってる」


「ひゃー。おじいちゃん可哀想! でも美味しいっすなぁ! パーティーでご飯とか、あたし憧れてたんだよねー! なんか、パリピ感あるよね!? ね!?」


 2人は思い出した。

 「「ああ、この人ぼっちなんだった」」と、心が完全にシンクロする。


「クララ先輩の狩りの腕のおかげですよ! 普段からやってるんですよね? 手際が良すぎましたし」

「はっはー! バレちったかぁー! モンスター飯ってバズるかなって思ってさ! インスタとかにアップしてんの! 全然見てもらえないけど!!」


「わ、わたし、今度からチェックしますから!」

「それにしても、こいつ本当に美味いなぁ。ご飯によく合うよ」

「クララ先輩が調味料まで持参してくれてて助かったねぇ!」


「あたしはチーム莉子の新人だかんね! バリバリ雑用こなしまっせー!!」


「ねえ、六駆くん? クララ先輩も増えた事だし、そろそろパーティーネームを変えよう? わたし、恥ずかしいよぉ!」

「おりょ? 莉子ちゃん知らないの? パーティーの名前って申請できるの一回限りだよ? 変更は受け付けてなかったはずだにゃ!」



「そうなんですか!? うわー、それはけっさく! あっはっは!!」

「……わたし、やっぱり師匠選びを間違えた気がするよぉ」



 腹ごしらえを済ませて、特に何もなかった第4層を抜けて、更に下の階層へと潜って行く3人である。

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