異世界転生6周した僕にダンジョン攻略は生ぬるい ~異世界で千のスキルをマスターした男、もう疲れたので現代でお金貯めて隠居したい~

五木友人

第1章

第1話 異世界転生を6度繰り返した最強の男。心が折れる

 逆神さかがみ家には、代々特殊な力を持った男児が生まれる。

 その話は後述するとして、まずはこの不思議な世界について少しだけ話そうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 この世には異世界と呼ばれる別の時空がある。

 我々のよく知っている世界、便宜上【現世】と呼ぶが、現世からも異世界に行く方法はある。


 各地にある、ダンジョンを潜って行けば、やがてどこかの異世界に通じる。

 これは約50年前、世界で初めてダンジョンが出現した九州北部。

 いわゆる【極東ダンジョン】の探索によって、解明された。


 通じる異世界は千差万別。

 友好的な国があれば、言葉すら通じない蛮族ばんぞくの国もある。

 しかし異世界と言うだけあって、未知の物質で溢れており、その中のいくつかは現世の技術を発展させるものであった。


 当然、ダンジョン内にはこれまた我々が知らない生物が跳梁跋扈ちょうりょうばっこしており、9割近くが敵意を持って襲い掛かって来る。

 また、未知の物質はダンジョン内にも存在し、それは場合によって探索者に襲い掛かる天然のトラップとして牙を剥いた。


 現に、極東ダンジョンの攻略には多くの犠牲者が出たと記録されている。


 だが、50年あれば現世の人類も成長する。

 知恵を付け、技術を開発し、ダンジョンを攻略する探索員のレベルは時間の経過とともに進化を遂げる。


 当たり前のことであるが、未だに危険は伴う。

 その危険をおかしてでもダンジョンに潜る価値があるのだ。


 今だ解明されていない、異世界の物質。

 現世では【イドクロア】と呼ばれる希少価値の高い鉱物、液体、植物、生物の骨や角、等々。

 イドクロアは特に研究者や収集家の間で高額な取引がなされる。


 腕に覚えのある者も、自信はなくとも金が必要な者も、ただ好奇心に突き動かされる者も、今ではこぞってダンジョンへと向かう。

 それが今日こんにちの日常なのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……ああ。僕はまた戻って来たのか」


 彼の名前は逆神さかがみ六駆ろっく

 何を隠そう、たった今、異世界から帰還したばかり。


「おお、帰ったな、六駆! どうだった!? お役目は果たしたか?」

「うん。まあ、適当に国を救ってきた」


 ここで前述していた、逆神家の特殊な血筋について語らねばならない。

 と言っても、ここでスターウォーズの冒頭のような説明をもう一度すれば、諸君はたちまち飽きてしまうだろう。


 であれば、端的に済ませよう。



 逆神家の男児は17歳になると、現世で命を落とす事で異世界に転生できるのだ。



 いささかざっくり行き過ぎた感が否めない。

 やはりスターウォーズ方式でやるべきだったか。だが、もう後戻りはできない。


「適当にとはなんだ! 我が一族しか成し得ない、崇高な使命だぞ!!」


 この、初登場から印象が悪い怒鳴り方をしているのは、逆神大吾。

 六駆の父親である。


「大丈夫。転生した方に加担して、国を平定してきたから」


 では、なにゆえ息子の六駆はこのようにやる気がないのか。

 それは、逆神家の特殊能力が、親から子に継承される度に強くなることに起因する。


 大吾は異世界に3度転生した。

 大吾の父、六駆の祖父である四郎は2度。

 先々代以前は1度きりだったと記録されている。


 では、六駆は何度目の異世界転生を果たしたのか。

 名は体を表すとはよく言ったもので、6を駆けるなんて名前を付けるから、このような事になる。



 彼は、実に6度の異世界転生を果たしていた。



 1度目はやる気に満ち満ちていた六駆くん。

 「さあ、この国でスキルを鍛えて国を救うぜ!」と、前のめりに初めての異世界を堪能し、7年の時を経て、無事に平和を築いた。


 逆神家の血筋のステキなところは、異世界から現世へと帰還すると転生した瞬間、つまり17歳の体に戻れる点である。

 しかも、覚えたスキルや魔術は習得したまま。


 つまり、次の異世界転生は強くてニューゲーム状態で始められる。


 それが六駆にとっては悲劇の始まりだった。

 2度目の転生は記憶と能力の持ち越しで最速ラップを塗り替える5年でクリア。


 その最中に六駆くん、早くも心が折れる。


 「なんで僕は毎回トラックにねられてまで、異世界に飛ばされにゃならんのだ」と言う、根本的な疑問に気付いてしまったのだ。


 歴代の逆神家の男児は皆、精神力が屈強だった。

 それゆえに、苦痛の伴う転生も、転生先での崇高な使命も難なくこなしてこられた。


 3度目の転生で、六駆は完全にやさぐれる。


 「崇高な使命(笑)」の職務放棄に打って出た彼は、5年の歳月を異世界で適当に過ごした。

 だが、異世界にはスマホもないし、アニメもなければラノベもない。

 ぶっちゃけ、5年もダラダラしていると、飽きて来る。


 結果、彼はその国では魔王軍と人類軍のどちらでもない革命軍に加担し、良い感じの革命をもってして異世界平定と自己採点。

 8年ぶりに現世へと帰還する。


 そうしたらば、また17歳。

 リプレイのように、またトラックに撥ねられる。


 トラックに撥ねられる以外に転生の方法はないのか。

 それは定かではないが、狙いすましたかのように彼をトラックが襲うのだ。

 ちなみに運転手は父。このためだけに大型の免許を取得している。


 4度目の異世界は、4年で平定。

 同時に六駆くん、名案を思い付く。


「僕の記憶を消してください」


 彼は、現世へと異送される際に、その国の魔術師に申し出た。

 困惑する魔術師たちだったが、「救国のゆうの頼みならば」と、疑問符を浮かべながらも彼の希望を叶えた。


 これにより、六駆は新鮮な気持ちを取り戻した。

 初めて異世界転生した時のフレッシュで希望に溢れていた時代に戻ったのだ。


 やって来た5度目の転生。



 転生先の国の妖精に「あなたには隠された記憶があるわ!」とか言われて、秒で記憶を戻される。



 自暴自棄になった六駆は、3年で国を平定した。

 「喧嘩両成敗」とか言いながら、対立していた2国を両方ボコボコにした。


 そんなこんなで、また転生。

 実に6度目。もう彼は目を閉じていても戦乱を終わらせる事ができる。

 2年で戻って来た彼が、先ほど目を覚ましたのである。


 ここでようやく時間軸が現在に。

 説明の仕方が悪かったと反省はしているが、だからと言ってもう一度繰り返すのはこちらとしても本意ではない。


 疲れるじゃないか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 逆神六駆。17歳。

 しかし、精神年齢は46歳。


 中年である。


 心は着古きふるしたTシャツの首元のようにヨレヨレ。

 彼は宣言した。


「もう僕は異世界なんか知らん。2度と転生はしない」


 当然、父の大吾と、祖父の四郎は口を揃えて言う。

「逆神家の崇高な使命をなんと心得るか!」


 だったら六駆くんにも言い分がある。


「それなら、力づくでどうぞ? 僕に勝てると思うのなら、かかっておいでよ」


「お前、それはないだろう」

「ワシらが勝てるわけないじゃん」



 六駆は、望みもしない最強の力を手に入れていたのだ。



 こうして物語は始まる。

 もう何もしたくない、最強の転生周回者リピーター


 けれど残酷な運命のいたずら。ご都合主義とも言うかもしれない。

 思わせぶりにダンジョンがどうのこうのと語った以上、彼は隠居生活を勝ち取るために立ち上がってもらわなければならないのだった。


 これは、逆神六駆が静かに暮らすための、長い戦いの歴史である。

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