アルバの馬、アルバの人
第176話 アルバの馬達
アンナさんからまたお手紙を貰ってしまいました。ソフィーちゃんの面倒を見てくれてありがとうと言う言葉が綴られ、終了後に挨拶がしたかったので、次回はぜひ楽屋にと書いて下さっていました。
おほう! またお誘い頂けるのでしょうか? ちょっと期待しちゃいますね。
アンナさんとソフィーちゃんとは、急に距離が縮まった感じがします。舞台の上で輝いているアンナさんも素敵ですが、ソフィーちゃんに優しい瞳を向けるアンナさんの方が、私の好感度は高いかも知れません。優しさに溢れているふたりの雰囲気に触れる度に、おふたりの事が大好きになって行くのです。
◇◇
「エレナー!」
「はーい!」
ハルさんに呼ばれて、大
熊達をメインに、人ほどの大きさを誇る大陸カメ、虎なのに大人しいサウスオルタイガーなどが、一堂に会していました。たまに手伝いで入る事もありますが、アウロさんとハルさんがメインで担当されているので、顔を出す頻度は低いとても大きな部屋です。
「この間、アンナさんに熊を売ったんだって」
「はい。この間のクスさんの仔です。人慣れしていて、アンナさんもソフィーちゃんも気に入ってくれたので、購入して頂きました。あ! 10万で売ってしまったのですが、安かったですかね? 大丈夫だったでしょうか?」
わざとらしく渋い表情を見せた瞬間、私の頭をわしゃわしゃ。
「そうね。普通に考えたらちょっと安かったわね。4万5千ミルドで仕入れたのなら、15万ミルドをまずは提示して、少し渋い顔したら少し下げる。最終的に13万前後が落としどころかな。でも、アンナさんの所でしょう、10万頂ければ充分よ。何と言っても、この店の
「よかったぁ~。値段交渉は難しいです」
「そうね。エレナはあまり向いていないかも、優し過ぎるもの」
「そうですか? みんな優しいですよ」
「そんなもの商売となれば別よ。フフフ」
「ハルさん、悪い顔になっています。それで、何で私は呼ばれたのでしょうか?」
「あ! そうそう。熊を売ったでしょう、ぼちぼち大型種に触れる機会を増やした方がいいかなって思ったのよ。小さな仔達の扱いは、もう大丈夫みたいだし、次は大きな仔達にも慣れて貰おうかなって」
なんと! 大きな仔達のお世話ですか。これは、大きな仔達と友達になる為にも頑張らないとです。
「おお! はい! お願いします!」
「いい返事ね。とりあえず、キルロと一緒にアルバに行って、馬達の様子を見て来て貰える」
「馬ですか!? 私ひとりで?」
「そう。【スミテマアルバレギオ】の
「それはどちらかと言うと【スミテマアルバレギオ】の一員として、って事でしょうか?」
「そう言う事」
おお⋯⋯。【スミテマアルバレギオ】として、またお仕事です。
何とも不安なのは私だけみたいです。ハルさんは、大丈夫を連発されていて、我関せずですよ。大丈夫かなぁ。
とりあえず、ハルさんから注意する事を中心に、馬についてのレクチャーを受けました。小さな仔達とは違い、力が強いので、注意する事が多いです。場合に寄っては命の危険もあるとの事で、真剣に話を聞きました。
◇◇
フェインさんが(アックスピークの)ヘッグに跨り、
荷台にはたくさんの防具や武器が積まれています。私の荷物も詰め込み、そんなに大きくもない荷台はパンパンです。大型種用の荷物はさすがにいっぱいになりますね。リストと照らし合わせて最後の点検をしたら、いざ、出発です。
「キルロさん、宜しくお願いします」
「おう」
「キノも宜しく」
「おう」
ふたり揃って何とも緊張感の無い感じです。緊張しているのは私だけですか。
「行って来ます!」
「うん、宜しくね」
ハルさんの笑顔に見送られ、一路アルバを目指します⋯⋯って言っても割とすぐに到着ですけど。
◇◇
アルバの回りを囲む壁の工事が、大急ぎで進んでいます。大粒の汗を掻きながら、職人さんが壁を築いていました。
入口に設けられている簡易的な詰所に、アルバを守る
ただし、装備はボロボロのままです。山ほどの装備を運び込んだ理由は、アルバの
「よう! ヨルセン、あとでちょっといいか?」
おお! ヨルセンさんのビシっとした敬礼が様になっています。
「よう」
「ちょっと、キノー」
キノの不躾な挨拶にも、ニコリと穏やかに笑顔を返してくれました。
「もちろんです! いつでもお呼び立て下さい」
ヨルセンさんの二つ返事に、キルロさんも笑顔を見せ、今日の目的地でもある
「私は馬房を覗いて来ます」
「おう、頼むよ」
キルロさんに声を掛け、併設している馬房にさっそく向かいます。
街を見渡すと、明るい雰囲気はそのままですが、住民の方々の自信を感じました。
実際、登録が完了した事で、正規に働けるようになった方も少なく無いとの事です。明るい未来が見えた事が、住民の方々の自信に繋がったのかも知れません。
馬房と同じく併設しているのは、
さて、馬房を覗きましょう。外から見た分には充分な大さだと思います。現在、馬は12頭ほど。結構な頭数です。
私が、入口に立つと馬達は一斉に私の視線を向けます。掃除は毎日していると言う事で不潔な感じはありません。
真っ先に気になったのは、一頭当たりのスペースが狭い事です。この狭いのを早急に何とかしなくてはいけませんね。馬達が足を折って座る事は可能ですが、横になる事は出来ません。単純に倍のスペースが必要です。
馬が増えるのを見込んで、奥の使っていないスペースがあります。そこを上手く使って、急いで広さを確保しましょう。
「よしよし、大丈夫だよ。怖くない、怖くない」
怯えと言うか警戒しているのか、小さな耳は小刻みに揺れて落ち着きがありません。牧草もちゃんと大きな餌入れに山盛りです⋯⋯山盛り?
きっと早朝にあげたのですよね。減り方が少なく感じます。いえ、少ないですね。
水もちゃんと交換しています。綺麗な水が餌箱の横に準備されていました。
初めて見た時から痩せていると思いましたが、ここに来て食生活など改善されているはずです。なのに、どの仔も痩せこけています。元気も覇気も感じ取れません。
取り急ぎ、馬房を広げる工事と世話をしている方から話を聞かないと。
「ちょっと待っていてね。またあとで来るから」
首筋を撫でると毛艶も良く無いし、筋肉のハリも感じません。
急ぎましょう。
「キルロさーん!」
私はまた詰所へ戻りました。
この元気の無い馬達の元気を、何としても取り戻さないとですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます