第60話 強敵(ライバル)登壇です
その大きな体にまずはびっくりです。カミオさんのモデルは、人の倍近くはある大きな
「どうどう? 可愛くない?」
「え? あ⋯⋯はい⋯⋯」
得意満面で笑顔を見せるカミオさん。呆気に取られている私は何とも気の抜けた返事しか出来ません。これが可愛いかどうかは、かなり個人の
鼻歌まじりに鮮やかな色に染まった毛を撫でつけているカミオさんはご満悦。カミオさんと並ぶと不思議とバランス良く見えてしまいます。
動物愛護という観点から見て、カミオさんの仔がどう映るか? かなり危うい賭けな気がしてなりません。審査員の方々の心象は間違いなく良くないと思うのですが⋯⋯カミオさんもその辺りは分かってはいらっしゃるはずです。
何だかいろいろと解せません。
「えっ!?」
完璧なまでのアピールをしたデルクスさんを筆頭に【オルファステイム】の方々が降壇されると、視界に飛び込む大きなぬいぐるみ。カミオさんの後を付いて回るその姿はもはやファンタジーです。皆さん目を剥いて、驚きを隠せません。冷静なデルクスさんですら、目を剥き驚いていられます。ですよね。
やはりインパクトは極大です。
「あれはやっちゃったね」
デルクスさんはすぐに冷静さを取り戻し、余裕の笑みを湛えていました。その表情からカミオさんは敵では無いと認知したのでしょう。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
フィリシアが見せていた警戒心。それを考えると単純にそう思ってはいけないのでは? とも、頭を過りますが⋯⋯。実際デルクスさんの言葉は的を射ていると感じてしまうのも事実です。
「お疲れさまです。大鷲、凄かったですね」
「ありがとう、その言葉は素直に受け取らせて貰いますよ。でも、どこか余裕がありますね、ウチに負けない自信でもおありかな」
「⋯⋯どうでしょう⋯⋯いえ、きっとフィリシアが優勝します。信じていますので」
その言葉は私自身に向けた言葉。ニコリと笑顔を返します。デルクスさんはわざとらしく驚いて見せ、控室へと戻られました。
「さぁ、行きましょう。あなたのお披露目よ」
軽快な足取りで、壇上へと向かうカミオさん。余裕のある姿は一変して変わりません。
(きゃあ~! 何あれ?)
(かわいい!)
(何だあれ?)
(やりすぎだ⋯⋯)
歓声やざわめきが裏まで届きます。女性の悲鳴に近い歓声。嫌悪に近いざわめき。様々な思いが、風に乗って届きます。
何せよ、今日一番のリアクションの大きさを見せていました。良し悪しあるにせよ、観客の視線が釘付けになっているのは裏からでも分かる程です。
「「「みなさん! お静かに! まずは紹介をしていきますよー! いいですかぁー! 予選2位通過! 【カミオトリマー】所属、カミオ・イグナシウス! ⋯⋯しかし、またこれは、凄い仔ですね⋯⋯何と形容すればいいのか⋯⋯カラフルと言うか⋯⋯何と言うか⋯⋯」」」
司会者さんも言葉に詰まってしまいました。
私は裏から、そっとみなさんの様子を伺います。困る司会者さんの先、審査員席を覗くとまさしく三者三様の姿を見せていました。
ジョブさんは立派な顎髭を撫で、どう捉えればいいのか、困っているように見えます。
ハモンさんは、瞳をキラキラさせていました。周りに気を使いつつ、壇上を見つめています。
モーラさんは⋯⋯ただでさえ不機嫌なのに、さらに不機嫌と言うか、もの凄く顔をしかめてあからさまな嫌悪を見せていますね。
壇上では大きなぬいぐるみがちょこんと座り、後ろ姿さえ可愛さが爆発しています。目がハートになっている女の子が壇上に釘付けです。その隣では、顔しかめる老人が何かぶつぶつと呟いています。
見た目の好き嫌いは大方予想通りです。問題は
ざわつきを嗅ぎ付けた人達が、ひと目見ようと押しかけ観客の数はどんどんどんどん増えていきます。フィリシアの言っていた通り、【オルファステイム】の大鷲の事など、どこかに行ってしまいそうなほど盛り上がりを見せています。いえ、実際、多くの人が既に忘れていると思います。アカイロ狼の事など覚えている人はもはや皆無に違いありません。
膨れ上がった観客をカミオさんは見渡していました。その姿は私を見てと言わんばかり。間違いなくこの瞬間、今日の主役はカミオさんとモデルの
「「「さぁ、この愛くるしい姿を見せる熊ちゃんのアピールをお願いします!」」」
司会者さんから渡された伝声管を握り締め、観客に愛想良く手を振って見せます。
「どうも、どうも。こんなにたくさんの人が集まってくれるなんて感激よ。ウチの可愛い仔ちゃんを良く見てちょうだいね。可愛いでしょう? どう? こんな綺麗な熊さん見た事無いでしょう。
あ、そうそう。この仔に使った
その時はもう所々剥げあがっていてねぇ、見るのも可哀想な状態だったわ。
何とかしなくちゃと思って、皮膚に良いと思われる事を片っ端から試した⋯⋯。
ね、それで今、こう思っている方いらっしゃるんじゃない。“皮膚が良くないのに、
「「「え? 私?」」」
「あなた以外いないでしょう! ほらほら⋯⋯どう、お肌綺麗でしょう」
「「「あ、はい。確かに。綺麗な桃色の地肌が見えますね」」」
「ここも、ここも、赤黒くただれていたのを、これでケアしてここまで良くなったのよ」
「「「本当ですか? しかし、確かに
「当たり前でしょう! お肌にいいんだから!」
びっくりです。肌にいい
常識をひっくり返して来ました。観客の皆さんの静かなざわつきが届きます。そのざわつきはあきらかに困惑を見せ、眉をしかめていた人達も言葉を失っていました。
観客の皆さんより、今日の出場者の方々が一番びっくりなはずです。
審査員の方は?
審査員席を覗きます。ハモンさんは胸の前で小さな拍手を繰り返し、モーラさんは、目の前にある伝声管を握り締めました。
「あ、ちょっといいですか? 肌にいい
「なぁにぃ、ちょっと! こんな所で嘘つくわけないでしょう!」
「そうですか。それは失礼した。その色合いは賛否出ると思うが、肌の弱い仔の一助になるのなら素晴らしい事だと思います」
伝声管を置くモーラさんの表情もどこか複雑です。とはいえ、あの辛口のモーラさんが褒めていました。フィリシアの言う通りです。この一瞬でカミオさんが全てを持って行ってしまいました。
カミオさん、凄い! 本当に凄い。
でも⋯⋯。
胸が高鳴ります。これは緊張とは違う高鳴り、高揚と言っていいかも知れません。
私はカミオさんの後ろ姿を一瞥し、控室へと下がって行きました。
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