第22話 結局どういう事何ですか?

「ハルヲ! ハルヲ! ハルヲ!!」

「チッ! チッ! チッ!」


 飛び込んで来たキルロさんにハルさんの舌打ちが聞こえて来ました。

 いつもの光景ですね、私も慣れたものです。舌打ちをいくらしようとも、結局は手を差し伸べるハルさんもいつもの事です。


「キルロさん、随分と回復したみたいで良かったですね」

「いやぁ、おかげさまで。アウロにもすっかり迷惑を⋯⋯って今そこじゃない! ハルヲ! 部屋に裸の女の子がっ!! いってぇえええ!!」


 冷酷な表情を浮かべるハルさんの手刀が、キルロさんの頭から鈍い音を鳴らしました。あれは痛いです、間違いありません。涙目のキルロさんが頭のてっぺんを必死にさすっているのが見えます。


「は、話を聞け! いえ、聞いて下さいませ」


 ツンと顔を背けてしまったハルさんに必死に懇願をしています。キルロさんの委縮する姿から、ハルさんの手刀が凶器並みの破壊力なのが伝わりました。


「はぁ? お・ま・え・は! 怪我人で世話してもらっている分際で⋯⋯」

「待て! 待て! 待って! その手を下ろして。朝、オレ、起きた、知らない女の子いた、びっくりした、ハルヲ知らない? 女の子?」


 キルロさんの言葉遣いがおかしな事になっていますよ。手刀に恐れおののいていますね。

 みんなはやり取りしているふたりに呆れながらも、楽しげに見守っていました。


「あんたの子じゃないの?」

「なんでそうなるんだよ! 子供なんているか! オレは清い体だ!」

『『『ぶっ!』』』


 アウロさんを筆頭にみんな噴き出しました。俯いて肩を揺らしています。特にアウロさんは机にうつ伏せて、必死に肩を震わせながらも耐えていました。


「んがっ! 本気か! この馬鹿力が!」


 さっきより大きな鈍い音が響き渡ります。顔を真っ赤にしたハルさんが手刀を振り下ろしていました。目をうるうるさせているキルロさんが、またまた頭を必死にさすっています。

 あ! 肩治ったのですかね? 

 あんなに腕上げているって事は、本当に良くなったみたい。

 良かった。

 私はお茶をカップに注ぎながらそんな関係の無い事を考えていました。


「あっ! もしかしてハルヲの子じゃねえのか? みんなに内緒にしていたから言いにくいだけなんじゃねえのか!」

「バ、バカ言ってんじゃないわよ! こ、こ、子供なんているはずないじゃない! き、清い体なんだから!!」

『『きゃあー!』』


 女性陣は何だか嬉しそうに黄色い歓声を上げ、こそこそと何か耳打ちしています。アウロさんはそっぽ向いて口笛を吹いていますが⋯⋯音出てないですよ?

 清い体って何ですかね? あとでフィリシアにでも聞いてみようっと。

 私がキルロさんの前にお茶を置くと、ふたりとも何だか少し落ち着いたようです。


「ともかく、あんたの部屋に行ってみましょう。話はそれからよ」


 ハルさんとキルロさんが食堂をあとにすると、みんなが無言で顔を見合わしていきます。


「結局どういう事?」


 ラーサさんの言った言葉が全てです。起きたら知らない女の子が裸でいた⋯⋯どういう事でしょう?


「この病院で死んだ女の子の霊だったりして!」


 フィリシアは間違いなくこの状況を楽しんでいますね。お化けですか? 昼間から?


「ないないない。そんな事だったらもっと前にそういう現象が起きているはずでしょう」


 モモさんは冷静です。


「あ、フィリシア。清い体って何?」


 私が首を傾げるとフィリシアはニタァっといやらしい笑みを向けて来ました。私はその怪しい笑顔にひきつります。何だかイヤな予感がしますよ。


「どれどれ、お姉さんが教えてあげよう。耳を貸してごらんなさい。ゴニョゴニョ⋯⋯分かった?」


 私はフィリシアを見つめます。眉間に皺を寄せフィリシアの言葉を頭の中で反芻しました。


「⋯⋯わかんない」

「ええーなんで! あれ? もしかしてエレナ、子供がどうして出来るか知らない?」


 私は黙って頷きます。そんな事考えた事も無いです。

 フィリシアはなぜだか納得した姿を見せ、私の両肩に手を置くと大きく頷いて見せました。


「これから動物モンスター達の面倒を見ていこうというのにそれはイカーン! どれ、もう一度耳を貸しなさい。ゴニョニョ⋯⋯で、ゴニョニョ⋯⋯がゴニョニョでゴニョニョとなって、ゴニョニョ⋯⋯なのよ。そしたらゴニョニョ⋯⋯ゴニョニョ⋯⋯ってなって子供が出来るの、分かった?」

「わ、分かりました⋯⋯⋯ありがと⋯⋯う⋯⋯」

「どういたしまして」


 フィリシアは満面の笑みとともに大仰な返事を返して来ました。遊ばれているのは分かりますが、返す言葉が見つかりません。耳まで熱いです。頬がジンジンと熱を帯びているのが分かります。何だかとっても恥ずかしい気持ちで俯いてしまいました。

 いやぁ、何と言いますか、そ、そうですか⋯⋯。


「アハハ、エレナかわいいね」


 ラーサさんまで。

 私は頬の紅潮がひかないままラーサさんを睨みました。ラーサさんはその姿に更に笑みを深めていきます。何だか悔しいけど、やっぱり何も返せません。

 

 みんなが未だ答えを見出せない中、勢い良く扉が開くと、布切れを巻いた見知らぬ女の子が元気良く飛び込んで来ました。

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