異類婚姻譚 1


 8月。いよいよ地獄のような暑さが始まり、最高気温が更新されていく毎日だ。水泳部が熱中症になったというニュースを見た。外出するにも気が抜けない。

 そんな殺人光線のような炎天の下、俺はひたすらブルーシートに本を立てていた。資料室の本の虫干しだ。資料室の裏庭にイベント用のテントを立て、その下にブルーシートを敷き、ひたすら本を並べるという地味な作業に徹している。

 リヤカーにありったけの本を乗せ、裏庭と資料室を往復する。強い直射日光が本に当たる時間を減らすため、資料室から裏庭には出来るだけ駆け足でリヤカーを引かなければならない。いくら腕力が強かろうと、体力には限界がある。

 蔵書の半分ほどを運び終えたところで、日陰に入って休憩することにした。首にかけたタオルで額を伝う汗を拭う。持ってきた麦茶も飲み干してしまった。

 突然、首筋に冷たいものを押し当てられた。「うわっ」と驚いて振り向くと、そこには悪戯な笑顔を浮かべた赤城さんがいた。今日は白いノースリーブのシャツにデニム、厚底のサンダルという、なんというか、クールな姿だった。

「お疲れ様」

 どうぞ、と彼女は冷えた缶ジュースを差し出してくれた。

「ありがとうございます」

 それを受け取り、「カシュッ」と蓋を開け、一気に流し込む。白い乳酸菌飲料は夏の味がする。

「ぷはっ」と一息つく。

「暑い中大変だね」

「バイトなんで仕方ないですよ」

「バイト?」と彼女は首を傾げる。

「言ってませんでしたっけ。俺は夏休みの間だけ、先生の研究の手伝いとか、雑用をするために雇われてるんですよ」

「へぇ~、そうだったんだ」

「赤城さんは部活ですか?」

 彼女は「ううん」と首を振る。

「実はね、OBの先輩が先生に相談したいことがあるっていうから、紹介するために来たの」

「先生に相談」

 俺が赤城さんと知り合ったきっかけは、彼女の家で起こる怪現象を解明するためだった。だとすれば、その相談事というのは──。

「うん、何か結婚に関することらしいの」

 全然違った。

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