第532話 流石クロ様と言うべきか

 そんな想いに浸りながらルルの参加する闘技大会まで暇を潰せる場所を探す。


「それにしてもすれ違う人々が皆んな以前より良い顔しているというか生き生きしてますねー」

「そうっすね。 活気があるというかいざこざの声が聞こえなくなったというか」


 ターニャが指摘するまで気付かなかったのだが、言われて注意深く観察してみると確かに以前より少しだけ良い意味でこの街か変わり始めている事が分かる。


 その理由は恐らく納税徴収を徹底的に管理し、本来の納税分しっかりと徴収する様にしたからであろう。


 クロ様曰くライフラインなどの維持費などはクロ様の故郷と比べてしまうと殆ど要らない為御役所が食えるぐらいの納税で十分との事だそうだ。


 今の納税量から数段階に別けて低くして行くとは言ってはいたものの今の段階で民の財布の紐が緩くなる程低くなっている事が伺える。


 その事からいかに今迄横領されて来たのかと言う事が伺えるだろう。


 更にライフライン設備の維持は殆ど要らないとは言っていたもののしっかりと修復整備されており特に劇的に変わったのはスラム街であろう。


 小汚く少し臭いイメージがあったスラム街だったが今では建物こそ変わっていないがゴミひとつ落ちていない事にビックリである。


 これも「ゴミ拾い」などという今迄無かったクエストが帝国からの依頼でギルドへ出されている為であろう。


 クロ様は窓割れ理論とかなんとか言ってはいたが綺麗になるのであれば何理論でも大歓迎である。


 そしてなんといっても裏の人間が一斉に掃除されたのが何よりも大きく、スラム街ですら子供が無邪気に遊べる環境になりつつある。


「ホント、変わったっすねー」


 クロ様が皇帝になられると決まった当初はこの世の終わりの様な雰囲気が訪れた街々で見られたのだが蓋を開ければ今や以前よりも生き生きとした民達の姿が見える。


 結局民達にとっては国のトップが人間か魔族かどうかなんかより自分たちがより良く暮らせるかどうかなのだろう。


「本当に変わりましたねー。 流石クロ様と言うべきか」


 そんな私の独り言とも取れる呟きにターニャが同じく呟き返してくれる。


 そんな良い意味での故郷の変化を肌で感じながら時間も忘れて散策しているとルルの試合が始まる時間の鐘の音が鳴り響くのであった。

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