第529話 敵と書いて友と呼ぶ


「今日は何をしますの?」

「そうですね……とりあえずこの昼から行われるトーナメント戦でも……出ても良いのでは……と提案してみます」

「あら、あらあら、珍しく面白そうな催しがあるじゃ無い」

「……このまま倒されて来れば良いのです……」

「あら、何か言いまして?」

「いえ…クロ様の顔に泥を塗って来る様にと……思ったまでです」

「あらあら、鉄屑にもユーモアが言えるのですね。そんな万が一も起こらない事を言うなんてね」


 その声の主達は側から見れば大富豪のお嬢様とその付き添いのメイドと言った出で立ちであるのだが二人が話している内容はまるで力自慢の冒険者とその悪友と言った内容である。


「あら、ルルと楓じゃない。相変わらず仲が良いわね」

「ホント、姉妹と言っても良い感じですよねー、可愛い可愛いです」

「ちょっと、おやめなさいっ! そこを撫でて良いのはお父様だけなんですから!!」


 そんな声の主達、楓とルルに挨拶をするとターニャはルルを外見通り小さな子供扱いし頭を撫でまくり、ルルがターニャにやめろと抗議する。


 しかし口が裂けても言えないのだが、撫でられてイヤイヤと首を振り必至に抗議するルルの姿は大人扱いして欲しくて堪らない背伸びしている子供にしか見えず思わず私もかいぐりかいぐりと触りたくなるほど可愛いと思ってしまう微笑ましい光景であると。


「ええ、ルル様とは……仲は良いですよ。互いの足をどう引っ張るか……想い合える程には」

「えぇー……」


 そして楓はというと先程の私の問いに実にいい笑顔で返してくれる。


 果たしてその関係を仲がいいと思える者がこの世界に果たしてこの二人以外にいるのだろうかと思ってしまう。


 あれだろうか? 敵と書いて友と呼ぶ的な感じであろうか?


「ムガーっ!! 離しなさいそこの爆乳娘!! わたくしは今からこの大会にエントリーしに行くのです!!」

「もう、仕方ないですね。照れなくても良いですのに。それにルルちゃんも大きくなったら爆乳じゃないですか」

「わ、わたくしはクロ様が大きい方が好きだから良いのですっ!!」

「………」


 そしてルルとターニャはなおもじゃれついているのだが、その会話を聞いた楓がそっと自分の慎ましやかな胸に手をかざしていた事は見なかった事にしておこう。

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