第496話キューブが床を転がる音

 この、恐らく何かしらの魔術である衝撃の威力は優に段位六を超えており、紙装甲のわたくしに致命的な程のダメージを与えられてしまう。


「ハハハハハッ!! 見たかっ!この雌豚がぁっ!!」

「ぐぅ……よ、よくも……」

「獣人との戦争でこの国を攻められた時に考えついた罠をまさかハイエルフに使う時が来ようとは思わなかったがな、備えあれば憂無しだなっ!!」


 油断していた。


 まさかあの王が無詠唱で段位六の魔術を撃って来るとは、少しも想像していなかった。


 腐ってもハイエルフ。


 長く生きた時の中で獣人との戦争も経験し、それを己の糧にした成果がこれである。

 実体験による経験もまたその者の力であり、わたくしはそれを見落とし見下してしまったのだ。


 ハイエルフ相手に弱い、弱そうだと決めつけ無詠唱からの高段位魔術は無いだろうという油断がこの結果である。


 あれほどクロ様から「お前は紙装甲だから弱い相手であろうと相手を舐めたプレイだけはするな」と言われ続けて来たにも関わらずである。


 悔やんでも悔やみきれない。


「ぐうぅ………」


 それでもわたくしは一縷の望みを託して黒い真四角のキューブを取り出し、床へと放り投げる。


 そのキューブが床を転がる音が「カラカラ」と部屋に響く。


「な、何が起こるかとびっくりしたではないか。 無駄な足掻きをしおってからに。ほれ、表を上げよ」


 一瞬私が投げたキューブにビビりつつもハイエルフの王はわたくしの下まで来ると髪の毛を掴み無理矢理顔を上げさせる。


「最後の質問だ。 そなた、わしの嫁になるか奴隷として生きるか選ぶがよい」

「誰がなるもんですか。 どっちも御免こうむりますわっ!」


 ハイエルフの王はわたくしの髪を掴んだまま胸を揉みながらそんな事を聞いてくる。


 そのハイエルフの王にわたくしは血の滲んだ唾を顔面に飛ばしてどちらも拒否する。


 初めて揉んでくれる殿方はクロ様だと夢見ていたのですけれども……叶いませんでしたわね……。


 そう思うと涙が自然と溢れてくる。


「この小娘がっ、少し優しくしてやるとつけ上がりやがってからにっ!! お前なんか奴隷で十分だっ!!」


 その涙とともにハイエルフの王の平手打ちがわたくしの頬を打つ。


「奴隷にして存分に可愛がってやろうじゃぁないかっ、もう随分と今のダークエルフの奴隷達には飽きていたしなっ、次はハイエルフの奴隷というのも新鮮味があって良いじゃないかっ」

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