第441話世界の常識を覆しかねない事

「確かに……あの動きをスキルや魔術の施しが無い状態でやれと言われれば俺は出来ない。しかし最後あの時ボナとかいう女は姉さんがいつも護身のためにかけているとエンチャント型魔術が発動し、事実その魔術に反応出来なかったのは誰が見ても明らかなんじゃないのか?」


 初めから聞きたい事はそれなのだから当たり前といえばそうなのだが私の回答にジョンは当然の様に聞き返してくる。


 それと同時に私はあの時の事を鮮明に思い出していた。


 人間ではありえない動きにスピード、そして力を目にし驚愕した時には既に彼女は私の眼前まで迫っていた。


 その時発動した私の護衛用魔術も発動こそしたものの彼女には見破られていたらしく見事にあしらわれていた。


 そしてボナは私にしか聞こえない声で「私はこの試合でこの技を使うつもりはありませんでしたし、使わなくても勝てると思っていました。私の負けです」と言うと私の護身用魔術を受けたかの様に膝から崩れ堕ちたのである。


「その話が本当だというならばボナとかいう女はスキルも魔術も使わずに身体能力を飛躍的に底上げしたと見ていいのかの? あり得ぬ……」


 私の説明を聞き苦虫を潰したかの様に顔を歪めているのはここに集まったメンバーの中でも最年長であり元宮廷魔術師筆頭でもあったトリプルSランクでもあるゴーエン・モールその人であり、全ての属性を段位六まで扱える為、二つ名は【極めし者】である。


 彼は紺色と地味ではあるが一目で高級であると分かるローブを着込み、口に白い髭を蓄え脇に杖を抱えながらその髭を撫でる姿はまさに魔術師そのものである。


 そんな彼の、この中で一番知識に長けるゴーエンがあり得ぬと言う事はボナがやってのけて事はまさに世界の常識を覆しかねない事なのであろう。


「それでどうするんですの?」


 この状況の中一人足を組んで机に肘をつきながら爪の手入れをする程緊張感を感じられない行動を取っていた彼女ミミリア・アルアルファは同じく緊張感のかけらも感じられない声音で聞いてくる。


 彼女は女性だけという構成で出来ているSランクパーティー姫騎士団のリーダーでもあり、その美しい見た目に反した強さから二つ名は【薔薇】である。


 それ故なのか他の冒険者達とは雰囲気が異なり常に身嗜みなどを気にかけている節が見られる。

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