第371話無い胸もそれはそれで良いものだ

 ベッテンいう侍女から指摘され、それに反論するミセルなのだがそもそもミセルがレイチェルという侍女を「脳味噌が無い」と言ったのはどうなるのか? と思ってしまうがそこは追求しない方が良さそうであると判断する。


「俺は無い胸もそれはそれで良いものだと思うけどな」

「ク……クロ・フリート様!? あぁ……ありがとうございます……」

「……っはひ!?」


 するとまたもや巨大な門が現れ、今回ある意味主役であるクロ・フリートが現れるとミセルのまな板をフォローしつつ頭を撫でていく。


 まな板の様な胸を肯定され、頭を撫でられたミセルは感極まった表情をし、今にも泣き出しそうなのだが、こちらとしては気が気では無い。


 セラ達が入って来た時点でガクガクと恐怖に震えているメアリーは兎も角、ガーネットと私はクロ・フリートを視界に入れた瞬間過呼吸を起こしてしまう。


 それ程にまで恐怖と圧倒的な力の差を植え付けられてしまっているので仕方ないと言えば仕方ない事であろう。


 しかし、クロ・フリートの前でみっともなく過呼吸を起こし、不快な呼吸音を聞かせ酸素欲しさにもがく様を見せてしまっては殺されるのでは?という感情がさらに過呼吸を酷くさせる。


「まったく………怯えてしまう事は仕方ないとは言えここまで怯えてしまわれては少々傷付くな……」


 クロ・フリートはそう言うと静かに私達の所まで歩みより、それを見て私達三人は無駄な足掻きだと知りつつも1秒でも長く生きたいと部屋の隅へと逃げ、固まる。


 そして私は恐怖の対象が視界に入らない様に目を瞑り来ないでと願うのだが、クロ・フリートの足音は止まらない。


「光の魔術段位二【癒しの光】………何もしないから落ち着いて。 ほら、怖く無い怖く無い」


 クロ・フリートが放った魔術による暖かな温もりと柔らかい声音で優しく包み込む様に抱かれた私達は次の瞬間には意識を失っていた。



◇◆◆◇



「まったく、何でシャーロット家の長女であるわたくし、フランボワーズ・シャーロットが崩壊しよりにもよって魔族が立て直した国家に……しかもこの様な辺境の地へと向かわねばいけませんのっ!? こういうのはお父様の仕事ではなくて!?」


 今日幾度となく吐いた愚痴をもう一度目の前に座る痩せ型の、白髪が最近目立ち始めた老執事に吐き捨てる。

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