第350話新たな婚約者

 そして背後からは未だ底を見せない複数のプレッシャーが現在進行形で跳ね上がりながらクロの精神をガリガリと削っていく。


 とてもではないのだが後ろを振り向く勇気は今のクロには無い。


 クロ自身寝耳に水であったのだから許して欲しいと思うものの思うだけにとどめ、決して口にはしない。


「ちょっとまって下さい! 幾ら何でもいきなり過ぎます! 聞けばクロには確かに何らかの方法でスフィア・エドワーズ姫との婚約の件は報告していたようですが、とうの本人はその報告を今まで確認しておらず今把握した状況ではちょっと無理強いが過ぎるのでは無いですか!?」

「確かに……サラさんが仰っている事は事実。 しかし、期日までに返信無ければ肯定であるとする文言も添えている。 そしてこれは一個人の問題では無く国王とその妃候補のやり取りであり、旦那様から返信が返って来なかった事から既に水面下では様々な事が動いている。 国王となられるお方が今更確認していませんでしたでは済まされない問題ではなかろうか」


  そしてクロに新たな婚約者ができようとする中、サラが真っ先に反論する。


 しかし反論される事を想定していたのか別段取り乱す様子も無く淡々と言い返すスフィア・エドワーズ姫なのだがその目には「針にかかった鯛を逃してなるものですか」と雄弁に語っているのが伺える。


 それもそのはずでスフィア・エドワーズ姫はクロとアーシェの戦闘を観たあの日あの時からクロ・フリートという人物に心奪われ、我が伴侶にと思っていたのである。


 その為確実にクロ・フリートと結ばれるプランをバハムートと練り罠を仕掛け、そして捕らえたのである。


 バハムート曰くクロ・フリート様はメッセージボックスという画期的なスキルをお持ちであるにも関わらず、ほぼ使用しないという事から「返信無ければ肯定」というトラップを仕掛けたのである。


  結果は自分でも驚くほど上手く行ったのだが、しかし誤算もあった。


  クロと既に婚約している者が数名いたのである。


 しかしもとより妻は複数人娶る計算であった為そこはぐっと我慢し、自分の嫉妬や妬みといった感情でこの婚約を破断にする事が無いように注意を払っているなどクロには知る由も無い。


「なら私も婚約者に選ばれても良いだろっ!?」

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