第320話髪も伸ばして女みたいな奴の事なんか好きになる訳がない
故に今この時間は本来出来るはずのないとんでもなく貴重な時間という事である。
当然普通に過ごしただけではそんな奇跡は起きるはずもなくターニャが以前から計画し、やっと手に入れた貴重な時間なのである。
そんな貴重な時間に水を差されたターニャはかけているメガネを中指で押し上げ位置を調整すると鼻息荒くフレイムを睨み付ける。
「まあ落ち着けターニャ」
「で、でも……」
今にも闘牛よろしく突進しそうなターニャの頭をクロは少し乱雑に撫でてあげるとターニャの表情は一気に緩みニヤケだすのだが、水を差された事はやはり納得いかないようである。
それでもクロに撫で続けられるとその事すら些細な事だと思える程幸せそうな表情をしだす。
その一連の流れをフレイムは物凄く羨ましそうに眺め、しかしその目は嫉妬に染まっている事にフレイム本人は気付けないでいる。
「で、良い機会だから聞くが何で最近俺を尾行しているんだ?」
「は?バカじゃねーの?不細工で枯枝のような身体で女みたいなお前を誰が尾行するかよ!自意識過剰なんじゃ無いのか?」
「………そ、そうか」
「何悲しそうな顔をしてんだよ!これじゃあ私が悪いみたいじゃあないか!ほんっとに女々しい奴だな!気分が悪いから帰らしてもらう!」
今現在は美形と言っても差し支えない顔を持っているクロなのだが前世ではお世辞でもイケメンと呼ばれる部類の人間では無かった。
その為フレイムの放った不細工という言葉に反応してしまい、それを感じ取ったフレイムがワタワタと慌てだすと気分が悪いと銅貨四枚を机に勢い良く置きその勢いのままクロがいる店から出て行く。
◆
「ったく、どうなってしまったんだ、私は」
そう一人呟くとフレイムは遠くの方で仲睦まじく商店が並ぶ路地を歩くクロとターニャを盗み見る。
幸せそうな二人の姿、特にクロの幸せそうな顔を見ると胸が締め付けられどうにかなりそうである。
この言い様のない感情を一時は恋してしまったのかと思いもしたのだが、そもそも私の好みはクロと真逆である事からそれは無いと一蹴する。
しかしながらこの感情が何なのか知るためにいつの間にかクロを尾行してしまっている自分がいる。
けしてクロが気になって仕方がないとかではないと言っておこう。あんな髪も伸ばして女みたいな奴の事なんか好きになる訳がないからな。
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