第319話却下します

「まったく……飯ぐらい気兼ねなく食いたいんだがね……」


 そして現在、砦付近に複数ある飲食店のうちの一つ、青空亭で食事をとっているのだが、自分の死角になる席に座っているフレイムをマップを開き確認するとまたかという気持ちになる。


 死角の席に座るのは良いがフレイム自身が有名人の為周りの反応で嫌でも気付いてしまう。


「どうしたのですか?クロ。少し顔色が芳しく無いように見えるのですが………」


 そんな俺の心情の変化に一緒に来ていたターニャが気付き、対面に座っている為隣まで移動すると熱の有無をおデコをくっ付ける方法で確認をとってくれる。


 それと同時に周囲の温度が若干上昇し、客がさり気なく居なくなって来ている気がする。


「熱は無いみたいですね。ですが具合は悪そうなので、私が食べさせてあげますね」


 そしてターニャは熱の有無を確認し終えると、今度はクロが頼んだ日替わり定食のおかずを練習したのだろう箸で上手に掴み取ると手皿を添えながら「あーん」という効果音と共にクロの口元へ運んで行く。


「……ったく、恥ずかしいからこの一口だけだぞ?」

「却下します」


 このバカップル全開の羞恥プレイをすぐにでも辞めて欲しいのだが嬉しそうにはにかみながら「はい、あーん」と続けるターニャを見て、羞恥プレイの対価がターニャの幸せそうな表情であるならば止む無しと思ってしまうあたりクロもバカップル脳になっているのであろう。


「こ、ここここ、公衆の面前で何て破廉恥な行為を行なっているんだお前!?」


 しかし、その行為を一部始終盗み見ていたフレイムはその熱に当てられ我慢の限界だったのだろう。


 ストーカー行為をしている事も忘れて顔を真っ赤にしながら指摘してくる。


「何って幸せを撒き散らしているだけですが?」


 普段温厚なターニャなのだがクロとの時間を邪魔された時だけはその限りではない。


 ターニャにとってクロと二人でいられる時間というのは唯一無二であり至福の時間である。


 またその時間もクロに婚約者が多い為中々作れない貴重な時間なのである。


 夜はお互い婚約者同士で決めたシフトでクロと二人になれる日を作っているのだがそれ以外は決まっておらず、またただでさえ多い婚約者が自分以外全員出払ったとしても奴隷のアル・ヴァレンタインと後日養子手続きをする事が決まったルル・エストワレーゼ、更にクロのメイドである楓が常に周りにいるのである。

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