第311話人間に調教された竜ほど野生の竜は怖くない

 しかしこの赤竜タマは召喚されるや否や私達を囲むようにいる周囲の赤竜達を睨みつけると「ここにいるお方を誰と心得る!? 我らが絶対王クロ・フリート様の懐刀、召喚師イルミナ様である! 頭が高いわ! 直ちに平伏せ!!」と声高々に吼えたのである。


 その騒ぎを聞きつけた村の族長補佐と呼ばれる赤竜が物凄い形相で私達の前に飛び降り、そして現在に至る。


「やめなさいタマ。 この村の長の許可を得ず勝手に来たのは私達です。 先ずはその事謝罪するのが常識でしょう」

「……分かりましたイルミナ様」

「分かれば良いです。 そこの赤竜も、怒るのはもっともなのだがどうか怒りを鎮めてもらえないでしょうか?この通りです」

「貴様の様な小娘が頭を下げてどれ程の価値があると言うのだ!? 頭どころかその命ですら価値がないわ」


 イルミナに諌められ矛を収めるタマに対し、イルミナに謝罪され更に怒りをあらわにする赤竜。


 しかしその赤竜がイルミナの命ですら価値がないと言った瞬間赤竜はタマの尻尾で転かされ、その首元にタマは装備している剣を首元へ突きつける。


 その動きは洗練されており一連の動作に無駄が無いのが人間の自分が見て分かるほどの美しい動きをしていた。


 イルミナの言う「人間に調教された竜ほど野生の竜は怖くない」という意味をその一撃で理解できてしまう。


「俺からすれば貴様の命も安い物なのだが?」

「ふ、不意打ちとは卑怯な! 赤竜としての誇りは完全に捨てたのか!?」

「これを不意打ちとほざいてしまう程ただ単に貴様が弱いだけであろう? それに俺は卑怯でもなんでも勝たなければ意味がないと思っている口でな、誇りに縛られ犬死するよりかは泥水啜ってでも生き長らえるのならば多少はマシだろう。 イルミナ様への冒涜、死んで詫びようか」


 そういうとタマは手に持つ白銀の美しい剣を振り上げると赤竜の首元目掛け振り下ろす。


 しかしその剣はイルミナの剣によって塞がれ赤竜の首皮一枚切るだけで止まる。


「辞めろと言っているのが分からないタマではないでしょう? 感情をコントロールできない訳では無いですよね?」

「………すみません」


 イルミナの言葉にタマはハッとした顔をし、赤竜を見た後大人しくイルミナの後ろに下がる。


 その行為はまるで赤竜を反面教師にしている様に見えなくもない。

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