第303話開いた口が更に開き関節が外れかかる


 逆に半年経っても元の様な日常を取り戻せない理由はやはり何百といるクロ・フリートの家臣達の影響だろう。


「そろそろいい加減にしないとあこのギルド受付のお姉さんにしょっ引いてもらいましょうか? それとももう一発殴りましょうか?」

「おえぇぇ! ぐうぅっ、きょ、今日の所はこれぐらいで勘弁してやるか……うう」


 ここ半年を振り返っているうちにイルミナが床に転がりお腹の中を戻しているジェーン・ドゥ・ボーガンに二択を迫り、当のジェーンは捨て台詞を吐きながらここギルドから出て行くのが見える。


 ちゃっかり去り際にヒールをかけてあげてるあたり根はいい人なのだろう。


 外で「イルミナ様ぁ!」とヒールに気付き叫ぶジェーンの声を無視しイルミナが此方へ依頼であろう用紙を持って歩んで来る。


 その周りには先ほどのいざこざでイルミナから離れていたのだろう子供達がいつの間にか群がっていた。


「この依頼を受けたいのだけど?」

「かしこまりま………」


 そしてイルミナが持って来た依頼を見て私は思わず言葉に詰まってしまう。


「どうしたの? ラーベル。 依頼を見せてみ………赤竜の逆鱗採取……」


 イルミナの依頼内容に驚く私を見て興味が湧いたのであろう隣の同僚が覗き見するのだが、その同僚は依頼内容を見て絶句してしまう。


 当たり前だ。


 赤竜と言えば竜種の中でも最上位に君臨している色種と呼ばれる種の一種である。


 普通ならば繁殖期を狙い卵から孵ったばかりの雛から採取するのが一般的であり、それでも親の竜の目や鼻や耳を欺かなければならずその難易度はSランクである。


しかも親竜に見つかった場合冒険者ランクダブルSランクでも生きて逃げれるかというレベルなのである。


そしそれらは五人以上のパーティでの話でもある。


「ええ。 この子達にクロ様の英雄譚を話していたのですが竜狩とその時竜王であった黒竜のバハムートとの出会いの所で竜を見て見たいときかないので一度きりという条件でこの子達に見せてやろうかと思いまして」


 ただでさえ開いた口が更に開き関節が外れかかる。


 この時期は子育てもひと段落している為産まれたての雛は居ない事から考えられる可能性に絶句してしまう。


 イルミナならあり得ると。


 それと同時にその英雄譚を聞いてみたいとも思ってしまうのは元冒険者の性だろう。

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