第297話人目もはばからずに涙を流し鼻水も垂らし泣いていた

その姿だけを見ると非常に可愛らしく思ってしまい、先ほどまで命のやり取りをしていた魔獣とはとても思えない。


「以前の私でしたらフレイムと同じ感覚だったのでしょうが、それ以上に規格外が身近にいますのでもう慣れましたね。こう見えて私の夫は私より強いんですよ?」

「ちょっと待て!! あのヒョロヒョロが今のサラより強いワケがなかろう!」

「残念でちゅけど私よりちゅよいんでちゅよー」


 テイムしたグリフォンを撫でくり回しながら明らかに喧嘩を売って来るサラに殺意が湧き上がるが、見え透いた嘘を並べて保身に走ってしまっているだろうサラの姿をみてああはなりたくないと、私が抱いている殺意も急速に萎んで行くのが分かる。


「いくら見栄を張りたいからってそれは幾ら何でもないだろう。 もう少しまともな嘘をついたらどうなんだ?」

「よーしよしよし 。なんか行き遅れ間近のお友達がなんか言ってますねー。 わしゃわしゃわしゃ」


これもう間違いなく喧嘩を売っているよな? 殴っても良いよな? サラの方が強くなっているとかそんなもんは関係ない。


「そぉの喧嘩、買ってやらあ!! 死にさらせ!! 火の魔獣段位三【煉獄】」

「早くも更年期障害で情緒不安定ですかね? 嫉妬していると素直に認めれば良いではないですか! 夫のバフが切れていますので今のはシャレになりませんよ!?」

「知るか! 貴様だけ幸せになりやがって!! 貴様だけは! 貴様だけは私の先を越さないと思っていたのに!! 裏切りやがったな!?」


 泣いていた。


 人目もはばからずに涙を流し鼻水も垂らし泣いていた。


 サラと私は異性のタイプが似ている為、もしどちらかが結婚するのならばお互い紹介して二人の夫にしようという約束もしていた。


 逆にいうとそれ程までに焦っていたとも言えるのだが、だからと言って二人とも妥協することも無くこのまま歳を取り、寂しい余生を過ごすのでは? という恐怖にも似た寂しさが夜風と共に去来し寝れない夜も幾度となく過ごした事もある。


「妥協なんて認めないぞ! あんな、弱そうな男性! 私達は、異性の男性には守る側ではなく守られる側でいたいとお互い話し合っていたではないか!? あれは嘘だったのか!?」





「……で、俺に決闘を申し込んだ…と?」

「そうだ! 枯れ枝のような貴様が私の親友であるサラよりも強い訳がないだろう! だからお前に勝ってサラの目を覚ましてやるんだよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る