第274話これではまるでデートではないのか?

 さらにクロが私の手をさり気なく握って来てもう幸せという二文字が頭と感情を支配する。


 この幸せの前では緊張感も羞恥心も取るに足らない感情になってしまうのだから不思議である。


 これではまるでデートではないのか?


 いや確かにこれはデートなのだがまさかあのクロがちゃんとデートっぽい事が出来るとは思ってすらいなかった


 その為キンバリーは心の準備が全く出来ておらず生まれて初めて好きな異性とのデートに緊張しっぱなしである。





 今現在クロと一緒に落ち着いた雰囲気の定食屋で食事をしているのだが、見るからに美味しいはずの料理の味が全くしない上に半分心ここにあらずと言った感じである。

 今日クロと今まで会話した内容なんて何一つ覚えてないほどである。


「全く……ほら、口元が汚れてるじゃないか」


 いつの間にか私の口元が汚れているらしくクロがナプキンで口周りを拭いてくれる。


「……いつものキンバリーも元気があって好きだけど今日のキンバリーも恋に奥手な淑女と言った様で可愛いな」


 クロに口元を指摘され、その事を恥ずかしいと思う前にクロがそれ以上に恥ずかしくも嬉しい言葉を放つと全ての女性が落ちるのではないか? と言いたくなるような笑顔を私に見せてくる。


 その瞬間店内で数人が倒れる音が聞こえ、今日一日中感じていた羨望と嫉妬が混ざった感情が膨れ上がったような気がする。


「かっかかか可愛い訳ないじゃない! 目ついてないんじゃないの!?」


 しかしか私の口から出るのはちっとも可愛げのない言葉で、素直じゃない自分に泣きたくなる。


 こんな女、可愛い訳がない。クロの言葉はただのお世辞に決まってる。


「ほら、言葉は否定しているが口元はもの凄く嬉しそうにしているじゃないか? そんな恥ずかしがり屋の所もツンデレで可愛いよ。 だから自信持って。 キンバリーはちゃんと可愛い」

「……クフ…っ!」


 死にたい。クフって何なのよ。絶対引かれた!!


 でもそれもこれもクロが悪い!あ、ああああ、あんな嬉し過ぎる言葉を言ってくれたらクフって変なにやけ笑いぐらい………しないわよ私の馬鹿野郎!!


 あんまりな失態に最早顔を上げられなく、顔を真っ赤にしながら俯く事しかできなくなるキンバリー。


 自分の笑い声を聞いたクロを見る勇気は無い。


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