第244話実に嬉しそうな顔を見せる


 ……っざけんな!!


 まるで水面に映る月に手を伸ばす様な感覚に陥り、技も型も無い出鱈目でメチャクチャな…想いだけ篭っただけの素人の様な一撃を放つ。


「………見事だ」


 その一撃がクロ・フリートの虚を着いたのか確かに一撃クロ・フリートの頬を掠めそこから鮮血が滴り落ちる。


 その瞬間クロ・フリートを囲っていた十振りの刀が消え去り、クロ・フリートが賞賛の声を上げる。


 届かないと思った一撃が確かにクロ・フリートに届いた。


 十振りの刀も消えた。


 形勢は逆転したと言っても過言ではない筈である。


 だと言うのにクロ・フリートは口角が上がり実に嬉しそうな顔を見せる。


「良くあの状況で十本刀を掻い潜り俺に一撃を当てたものだ。素直に賞賛できる……だが、そのレベルの対戦相手は既に幾人も倒している。勿論それ以上も」


 そしてクロ・フリートは人間の姿から魔族のそれへと姿を変える。


「だが十本刀を実際に掻い潜ってみせた実力を持っているのも事実……ならば俺もそれなりの装備で行かさせてもらおう」


 頭には二本の立派な羊角が生え、背中には蝙蝠と言うよりもむしろドラゴンの様な禍々しさを放つ立派な翼を広げ、今まで着ていた庶民が着る流行的な衣服か高級品で有ろう事が一目で伺える礼装の様な衣服へと変わっていた。


 堂々と佇むその姿はまさに大魔王と呼ばれるに相応しく俺の本能が逃げろと激しく脳内で叫んで来る。


 その事からもクロ・フリートの姿形だけでは無く戦闘能力までも変化し、さらなる強者へと変貌している事が伺える。


 今まで相手にしていたクロ・フリートは手加減してワザと自身の様々な能力を下げた状態だったのだろう。


 そう思うと今まで感じていた悔しさが更に大きく膨れ上がる。


「さあ、二回戦目を始めよう」


 しかしそんな自分の感情など関係なくクロ・フリートは実に嬉しそうに再戦を口にする。


 それと同時に考えるのを頭の隅に追いやりクロ・フリートが動き出す前に攻めに疾走する。


 自分とて先程の戦闘で何もしなかった訳ではない。


 むしろこれで全力が出せる。


 そして俺は無詠唱で炎の魔術段位三【インフレイム】を詠唱、それと同時に先程の戦闘で設置しておいたエンチャントフィールドタイプの魔術段位一【炎の印章】が反応する。


 この魔術は敵味方関係なくお互いが詠唱する炎魔術の威力が一割上昇すると言う魔術である。


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