第232話卓越した魔術師とはとても思えない
「今更だが君の名前を教えてくれないか?」
「……クルム……クルム・オーエン……ですわ」
「ではクルム……お休み」
「え……」
クロは静かにパチンと指を鳴らすとクルムに催眠の効果がある魔術の一つをクルムにかける。
その間目の前の男性は静かにクロの行動を見ていた。まるでいつでもクロを殺せると言っているかのように。
「この俺様を目の前にしてずいぶんと余裕じゃんか。さすがルルを倒しただけの事はある」
「それはお前も同じだろう?其れ程の強敵と知り切れと言わんばかりの隙を見逃している」
そう、それは正に不自然である。クロをクロと知り殺しに来たのなら確実に殺せるタイミングをみすみす逃す様な彼の行動は言い様のない違和感をクロに与える。
そしてその違和感は次の彼の言葉で解決する。
「アーシェ・ヘルミオネとの戦闘で無詠唱と高段位魔術が、そしてルル・エストワレーゼとの戦闘で殆んどの魔術が使えなくなってんだろ?」
クロを見る彼のその目は何処までもクロを見下し、その口は嘲笑い、その表情は確かな殺意を宿す。
「今までの報告が確かならお前の戦闘スタイルは魔術を基本とし相手を束縛して勝つ戦闘スタイルだろう」
「まぁ、そうだな。しかし、魔術だけが得意なスタイルじゃあやってけないよ……向こうの世界は」
◇◆◇◆
そういうとクロ・フリートは静かに歩み寄ってくる。
その姿からはただの優男にしか見えずあのアーシェ・ヘルミオネやルル・エストワレーゼを倒した卓越した魔術師とはとても思えない。
そう思うも俺は相棒の大鎌、漆黒を構える。
「特殊な結界を作り闘う事も出来るんだろう?なぜしないんだ?」
「ああ、あれには発動するのに条件が幾つか揃ってないとできなくてな」
「ふーん」
使わないという事はそういう事なのだろう。
そんな事はいちいち聞かなくても分かる事だがその間僅かでも時間を作りクロ・フリートを観察する。
その足取りは明らかに素人、身体つきも細く魔術が使えなければ一般人と言われても遜色はない。
命の奪い合いなんて無縁の表の世界の住人……それが俺が今彼を見て抱くクロ・フリートの印象である。
しかしクロ・フリートからは焦りも緊張感も見受けられず魔術を使えなくても勝てるという確かな余裕がそこに合った。
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