第222話その先にいるのは一人の人間

 しかしその瞬間ブラッドの口角が上がりニヤリと笑う。その視線の先には一匹のコウモリがルシファーに噛みつこうとする姿が見えた。


「痛いっ!?」

「噛まれたな……?我が眷属に噛まれたな!?これでお前は我が物だ!!」


 その一匹のコウモリがルシファーの首筋に牙を突き立て、紅い雫がルシファーの首筋から流れ出すのをブラッドが確認すると瀕死の状態でありながらも声高々に笑い始める。


 そして彼の眷属であるコウモリに噛まれたルシファーは彼のコレクションになりもう元には戻らないだろう。


 ブラッドも我々帝国軍側も何の疑いも無くそう思っていたのだが、いつまでたってもルシファーがブラッドのコレクションになる気配は無く本来ならその表情が無表情になり生気を失って行くのだが、それとは逆にルシファーの表情は憤怒に染まり始め、その目には涙が溜まり始めているではないか。


「痛かった……」

「……は?」

「痛かった!!闇属性魔術段位一【影針】」


 そしてルシファーは噛まれた箇所を手で摩りおそらく無詠唱で回復魔法を施し噛まれた傷口を塞ぐとブラッドの周りで飛んでいる、先程ルシファーを噛んだと思われるコウモリに闇属性魔術を発動させ影で出来た針をそのコウモリに突き刺し殺す。


「な、何で噛まれたのに平気なんだよ……」


 その光景には流石のブラッドも心が折れたのかその目に力は無く自らの能力すら無効化してしまう存在を前に恐怖が滲み始める。


 彼女はブラッドのオートスキルの影響を受けず彼を殺す術を持ち、そして彼のもう一つの武器である眷属化すらその効果を受け付けない。


 戦闘においても彼女の召喚獣ですら倒せず最早ブラッドに勝ち目はないだろう。


 そんな中我々がいる広大かつ煌びやかさもある部屋には似つかわしくない漆黒の巨大な扉が現れ、地響きのような音と共にその扉が開き始める。


 その先にいるのは一人の人間。


 その人間は床に崩れ落ちているブラッドまで歩み寄るとブラッドの髪の毛を掴み頭を持ち上げ視線を強制的に合わせる。


「お前か?俺のルシファーを交換材料も無しにトレード要求してきた奴は?」

「貴様……貴様が……貴様ごとき人間が彼女達の主だと……?」


 ルシファーによりプライドを粉々に打ち砕かれ踏み躙られ叩きのめされているのが彼のその表情からも見て取れるのだが、今彼を見下している相手が人間と知り彼の中に僅かに残っている、上位種のヴァンパイアでありその中でも最高位に位置する真祖であるというプライドが憔悴しきっている彼の表情に怒りの要素を加えさせる。



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