第204話未来であり希望

 しかしベッテンの縋るような想いは目の前で次々に仲間を殺していくマンティコアを前にして次第に崩れて行く。


「………帝国の貴族はやはり腐ってやがる。だが、この未来ある若者まで簡単に死なせてしまう程俺は弱くは無いぞ糞猫野郎。せめて腕の一本でも我々の冥土の土産に置いていって貰おうか」


 しかしコンラッドだけはまだ希望を捨てた訳では無かった。


 せめてベッテンだけは生きて帝国では無い他国へ逃がし、この真実を伝えさせなくてはならない。


 そして若く才能に溢れ飛ぶ鳥も撃ち落とす破竹の勢いで成長をし続けているベッテンは此処で死なれては困るのだ。


 ベッテンは、いや…ベッテンに限らず若者は皆その存在こそが未来であり希望である。


「ベッテン、お前の目に耳に、肌に焼き付けておけ」


 コンラッドはそう言うと今度はマンティコアに向きを変え、怒りを宿した眼光をもってマンティコアの後にいるであろう、今現在帝国で我々をあざ笑ているであろう腐った貴族達を睨み付ける。


「コンラッド・ボールドルグ、推して参る」


 そしてコンラッドは神速の速さで青い残像を残しながらマンティコアに無数の剣撃を目にも留まらぬ速さで斬り付ける。


 その攻撃は無雑作に無作為に攻撃している風に見えるのだがただ一箇所、マンティコアの左後脚のみ重点を置き慎重かつ精密にその一箇所を寸分の狂い無く斬り付ける。


 後脚が一脚無い状態ならばベッテン一人でもこのマンティコアを倒す事は可能であろう。


 この機会を得るために邪魔にしかならないであろう部下を見殺しにした。


 さすがのコンラッドでもこの超高速移動からの正確な斬撃をしながら動く部下複数の位置まで把握してやってのけるのは至難の技である。


 だから死んで貰った。修羅になった。


 それ程の覚悟をした。


 だと言うのにマンティコアの脚は斬った瞬間に瞬時に回復していっており、コンラッドの斬撃ですら追いつけないほどである。


 そしてついに人間の限界を超えた速さで攻撃していたコンラッドをマンティコアの攻撃が襲う。


 マンティコアは威力は低いが範囲攻撃である、自身の周り半径五メートル以内へ攻撃出来るスキル【獅子の咆哮】を発動し、コンラッドを弾き飛ばす。


「ガッ、ハッ……化け物が。いや、化け物は腐った貴族の連中か」


 そしてボス部屋の壁に叩きつけられたコンラッドは濃い怒りと憎しみを吐き出す。



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