第159話揺れるお乳様
背後でアルが「胸に目が行くからだ馬鹿野郎っ!」とクロを罵倒する声が聞こえて来るのだがまんまとルルの策に嵌まってしまっては返す言葉も見当たらない。
「まさかまんまとひかかってくれるとは、貴方ひょっとして馬鹿なの?」
「揺れるお乳様の前では男性は等しく馬鹿になるものさ」
さらにルルにまで馬鹿にされるも何故か誇らしげにルルに発せられた罵倒を受け入れるクロ。
「しかし、ただ無闇に魔術を詠唱しながら逃げているのでは無くエンチャント系魔術を無効化する魔術【解除】の上位交換であり、カウンタースペルなどにより打ち消されない効果を持つ光魔術段位四【解消】と闇魔術段位五【ツケの代価】を光魔術段位五【時の凍結】により設置しトラップを張っていたとは……まるでギルティー・ブラットでの対人戦を彷彿とさせる良い立ち回りじゃないか」
ルルが張ったトラップの効果は、まず【解消】によりクロが自身にエンチャントしている底段位の魔術を無効化する魔術を破壊し、【ツケの代価】のより今まで貰ったルルの魔術に付与されていた追加効果が一気に発動、その結果クロは身動きが取れなくなってしまったのである。
いくら相手を下に見ていたとはいえクロに気付かれず段位三以上の魔術を三つも駆使してトラップを張るルルの技術と魔術の知識、コンボを考え付く柔軟性は目を見張る物を感じさせる。
クロと違い平均魔術段位がタダでさえ低いこの世界でネット環境も無ければ勿論攻略サイトも無い環境で実戦でこの世界では高段位に当たる魔術を駆使して使えるコンボをしようし、成功させているのである。
彼女が強者であるという事を認めなくてはいけないようだ。
「むしろ私がやった一連の流れを一瞬で理解出来る貴方は流石と言うべきね、大魔王さん?」
そう言うとルルは【解消】を詠唱すると「パキンッ」という乾いた音がルルの後頭部を中心にして辺りに響く。
「でも大魔王さん?無知も確かにこの世界では死ぬ要因の一つなのだけど、奢りもまた死ぬ要因の一つよね?」
そしてルルは先ほどからにやけてしまいそうになるのを我慢するのを止め、ニタリとその柔らかく色っぽい唇を歪め口角を上げるとおもむろに自身に付けている眼帯を取り外す。
眼帯を外しそこにある物は、とても人間一人の魔力とは思えないほどの魔力を本体であるルルとは別に宿し、絶え間なく溢れ出る禍々しい魔力を滝の様に空へと垂れ流す。
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