第96話アンモニア独特の臭い
登録手続きをするべくギルドカードを提示しようとしたクロなのだがある事に気付きその手がカードを掴んだままで止まり、そのカードをギルド受付嬢が離せと睨みながら目で訴えて来る。
「猪口才な!ついてるものぶら下げているのなら一度言った事は守りなさいよっ」
そう言うとギルド受付嬢は俺から力づくでギルドカードを奪い取る。
下品な言葉は言うまでもなく、勝手に奪い取るその行為はギルド職員としてどうなのだろうか?しかし今はそんな些細なことよりも俺の情報がどこまでそのギルドカードに記されているかである。
あれだけの戦闘をアーシェと繰り広げたのである。前世ほどとの化学技術は無いこの世界ではあるが、何だかんだで魔術技術発展しているので前世と近い用途をそのカードが担っているのだとすれば俺の正体もモロバレであろう。
その証拠に先ほどまであれほど威勢がよく喧嘩っ早いギルド受付嬢がガタガタと震えてきているではないか。
さらにギルド受付嬢の額から大量の脂汗が浮き始め、呼吸も荒くなりその顔から血の気が引いてきている。
これ絶対正体バレてるだろ……?
それでもギルド受付嬢は毅然な態度を取り繕うのだが、先ほどまでの威勢のよさは見受けられず、硬直し震える身体をギギギと音を立てながらこちらに目線を向けてくる。
「……あ、あなた……し、新魔――」
「何か?」
「ふぇっ!?」
「何か?問題でも?」
「あぅ…………はぅう」
ここはもう押しきろうと思い少し語気を強めて迫ってみたのだが、想像以上の効果だったらしく、ギルド受付嬢は恐怖に脅えた顔をした後、その顔が緩みきった顔をしたと思うと同時に下半身からショワ~という音とアンモニア独特の臭いが鼻孔を掠める。
そしてその臭いを感じ取る瞬間に親指と中指を使い指を鳴らし魔術段位一【ウォーター】を無詠唱で発動し、ギルド受付嬢の頭からぶっかける。
以前みたいに完全な無詠唱ではなく指を鳴らさすなど魔術発動時、行使するという『スイッチ』の役割を持たせた動作をしなければ魔術を無詠唱で発動できなくなっており、それを不便に感じる。
「っ…………たく、世話が焼ける」
そう言うとクロは受付カウンターの内側へ、カウンターを飛び越え中に入るとギルドカードを回収し、濡れ鼠になった件のギルド受付嬢をお姫様抱っこの容量で抱きかかえるとそのままホウスレニアの立っている場所まで跳躍する。
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