第89話鴨が葱
服装はこの世界に馴染むためにストレージからこの世界でもありそうな服をチョイスし来ているのだが、まるで新品かつ富裕層が着そうな服に見え、そんな奴が無防備に観光気分で街をぶらぶらしているのである。
……もしかして今の俺って見える人には鴨が葱をしょって無防備に歩いてるように見えるんじゃ…
そう思うと急に話しかけてきたこの老人のアイコンが赤くなっている理由になんとなく気付き、警戒しているといつの間にかおじさんの左手が俺の懐を探っているではないか。
「【カグチ】」
というわけでストレージから木刀を取り出すと問答無用でスキルを発動し、この舐め腐っている糞ジジイに喰らわす。
「ったく、油断も隙もねーな…」
しかし、あの老人が言っていた事は嘘ではないだろう。
わざわざ調べたらすぐ分かるような事で嘘を付く必要性もないだろうし、むしろ知っているからこそこの街に来る人の方が多いのだろう。
そう思えてしまうほど周りを見渡せば学生であろう若者やこの街で生活しているであろう住人に混じって観光客らしき人々の姿も数多く目に入ってくる。
その中でも特に自分は警戒心が薄く平和ボケしてそうな立ち振る舞いでさぞ美味しそうな獲物に見えたことだろう。
現に、このマップ機能がなければスられた事すら気付かなかったであろう事は間違いない。
改めて日本という国と国民性は良い意味でも悪い意味でも平和であったのだと思い知らされる。
この世界は日本ではない。
そのことを今一度胸に刻みながら、先ほどスキルを撃ち込んだ老人に平和ボケしていた自分に気付かしてくれたお礼と授業料の意味を込めスキル【キュア】を使ってやる。
「……か、金は持ってないぞ」
「金は要らない。そもそも盗みを働くような奴に払えるほどの金銭などはじめから期待していない。わかったらさっさと俺の前から消えろ。目障りだ」
そしてスキル【キュア】を掛けられた老人が迷惑そうな顔で金の無心を言ってこようとするので、それを制し金が要らない事と、目障りである事を告げると「糞がっ」と悪態を付きながら去っていた。
そんなことがありこの街の治安の悪さを懸念するのだがどうやら杞憂だったようだ。
と思いたかったのだが、当初の目的である図書館を探すため辺りを散策するのだが、あのスリがあった時から誰かに後を付けられているので辟易してしまう。
しかしマップで見たアイコンの色は青色なので敵意ではなく好意を向けられているみたいなのだが、アイコンが青だからといって警戒しない理由にはならない。
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