第30話デリカシーに欠けると

 ちなみにミイアは仲間外れは嫌だと冒険者に戻るためギルド職員を辞めていた。


 一度ギルド職員になれれば粗相などで辞めてない限り比較的簡単に出戻りできるらしい。ギルド側もランクを上げて新たな知識を得て出戻りしてくれるのなら大歓迎なのだそうだ。そのため一度ギルド職員になった上で冒険者業を再開し、老いたらギルド職員になる者も多いらしい。


 そんな話をしながらムヌーを後二匹狩ると三人は夜営の準備を始める。


「二人とも手際が良いな」

「むしろお前が手際が悪すぎるんだ!」

「でも意外ですね。クロさんが夜営の経験が無いなんて」


 二人は慣れた手つきでクロのストレージから出した竹の骨組みに魔獣の革で出来たテントをスムーズに建てて行く。


 そしてクロはメアに教えてもらいながら自分用のテントをなんとか建てた。


まさか一人でテント一つ立てるのがここまで難しいとは予想外である。


「しかし、本当にこんなテントで大丈夫なのか? ムヌーの体当たりで簡単に壊れそうなんだが……」

「あぁ、それなら問題ない。ムヌーは目が悪くてほとんど見えない。だから夜にムヌーは活動することはまず無いんだ」

「そしてムヌーは鼻がきくのですが自分の縄張りに入ってこない限りまず襲う事はありません。縄張りの範囲は広く約半径10キロ程に及びますので最後に狩ったムヌーの縄張りだったこの場所は数日は安全です」


 メアの説明に補足するミイアなのだが、さすが昨日までギルド職員だっただけの説得力がある説明である。


「しかし、一歩でも縄張りに脚を踏み入れたら…」

「問答無用で襲ってくるんだろ? ビックリしたわ。流石に三回目では馴れたけど」

「はい。そのため肉食獣もこの草原には入りません」


 人間でも誰彼構わず理由もなく突っかかってくる人には近づくたくないのと同じなのだろうか?


 しかもムヌーの場合は命に関わってくる。こんな場所になるとたとえ肉食獣だろうとも生きていくのは容易ではないのだろう。


 しかしそんなムヌーの肉は実に絶品で、その肉は柔らかく、獣臭くもない。また脂はしつこくないためクロはムヌーの肉を約一キロも食べたのであった。


 その夜、ミイアがやけにテンションが高かった理由を聞いてみると「薬を飲んでいるとはいえ発情期には変わりませんから気を紛らわせているんです」と顔を赤らめて言うミイア。


 メアからはデリカシーに欠けると叱られ完全に藪蛇だったみたいだ。


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