第8話ホホホと小さく笑う
そして俺は悟る。この世界でも男性より女性のほうが強い、と。
タラリとクロの頬に汗が流れる。
「クロ・フリートさんだったかしら?」
「あっ、はい!」
ピシッと自然に姿勢をただすクロ。
「私はメアの母親でゼニア・トリステン、横でだらしなく意識が飛んでるのが父親でボストン・トリステンよ。貴方を婿として認めます。じゃじゃ馬で何かと迷惑をかけるでしょうが…………かけるかも……いやかけると断言できる娘ですが見捨てないであげてね?」
そしてゼニアはクロの耳元に口を持っていきクロにしか聞こえない声で「夫はああ言いましたが妾は何人も作っちゃいなさい。私が許可します。何より貴方を娘一人で縛るのは無理でしょうし、それが貴方のストレスの原因になるよりましですからね」と言うと、ホホホと小さく笑うゼニアであった。
この後確かに食事をご馳走してもらったのだが、食べた食事の味は記憶にない。
あれから話はスムーズに進み、どうやら俺はこの家に居候できるらしい。
あの後メアの親父さんであるボストンは俺の注いだ日本酒を飲むと目の色を変え、コップ一杯の酒をチビチビと飲み干し一升瓶にまだなみなみと入っている日本酒にコルクで栓をするとアルコール飲料用のコレクション棚であろう棚に戻し「旨かった………………旨かった」と染みるように呟いた。
そして同じ棚から別の、この世界の酒とコップを取り出すとクロと同じように酒を注ぎクロの前に出してきた。
「住む場所や環境、作る人が違うだけでここまで味が違う酒を作れるのだな…………」
そう言うとボストンはクロの前に濃い赤紫の液体を差し出す。
あのときはどう断ろうかと思っていたが一口飲んでみるとワインとは違い葡萄の甘さが口に広がり酸味もなくまるで葡萄ジュースの様に美味しく飲めた。
今まで酒は苦手だと思っていたのだが、焼酎やビールはダメだが果実酒系リキュールのカクテルならジュース感覚で飲めるっていう人がいるのはこういう事だったのか――――ともう味わう事ができないかもしれない元の世界の酒に少し興味が湧いたりもした。
そして今はあてがわれた部屋のベッドで横になりまどろんでいる最中だったりする。背中の羽は邪魔なのでストレージにアイテムを仕舞っている。
「これで寝床は確保できたんだが、さすがにヒモはヤバいよな…………」
多分ボストンに殺されるだろう未来は容易く想像できた。
ゲーム中無駄に貯め込んだお金が使えるのならもしかすると一生遊んで暮らせるのだろうがそれは人としてどうなんだろう?
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