第9話経験あるに決まってんだろ


せめて簡単な仕事でもして生活基盤を作れれば良いんだろうけどハローワークなんてあるわけないよな…………。


 一つの課題がクリアしたと思うとまた別の課題が出てくる。


「しっ、失礼するぞ…………っ」


明日からどうやって仕事探ししようかと思っているとメアが入って来た。少し顔が赤い気もする。


「…何か俺に用事か?」

「い、いや……ここは私とお前の相部屋なんだ。私が入ってくるのに理由は要らないだろ?」


 そういうメアの顔は赤く染まり目線を合わせようとしない。

 クロは「あぁ」と短く答えると自分の座っているベッドの横をポンポンと軽く叩く。ここに座れと意味を込めて。

 だてに35年も歳をとっていないクロはメアが見るからに緊張している原因を理解した。多分初夜を迎えると思っているのだろう。俺が横に座れとジェチャーするだけで涙目になりおろおろしている。察するにこういった経験がないのだろう。


「何をしているんだ? 早く座れよ」


 ビクッと反応するメアを見て微笑ましく思うが流石にどうこうするつもりはない。流石に幼すぎて許容範囲外である。せめて後二~三年は育てほしい。


 いや、その前に妻子いるしな。


「し、失礼しますっ!」


 そう言うとメアはちょこんとクロの隣に座りモジモジし始める。


「何緊張してるんだよ?」

「だ、だって初めてなんだぞ! 緊張だってするさ! そ、そういうクロはどうなんだよ!?」

「そりゃーお前経験あるに決まってんだろ?」


 それこそ両手に収まらないほどやってるからな。既婚者なめんな。でも俺も初めてはどうすればいいか分からずいっぱいいっぱいだったっけ。


「う、嘘よ嘘!」

「嘘ついてどうするんだよ」

「だ、だって見た感じ私と歳あまり変わらないみたいだし、それにそれに……」

「とりあえず落ち着け」

「あぅっ」


 メアが急にわたわたし始めたので額をペシャリと叩き落ち着かせる。

叩かれた額をさすりながら涙目で睨んでくるメア。その姿は確かに可愛く思うのだが、子供っぽさがやはり際立っている。


「大丈夫だ。お前に何かする事は今のところは無いから安心しろ」

「……わかった」


 それはそれで女としてどうなんだ?と言いたげな視線を向けてくるがとりあえずは落ち着いてくれたみたいで心の中で苦笑いする。

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