第103話 俺のパンツ下げて何してるん?

 地面に転がるテコイの上体。

 その体の周りを下半身が行き来する。

 おそらく時速300キロの瞬発力で動いているつもりなのだろうが、傍から見るとパントマイム!

 全くもって進んでおりません!

 まあ、ゴキブリの腹部には無数の神経の集まった神経球という脳みそのようなモノもあるから、頭がなくなったところで死にはしない。

 だが腹を潰されれば、体液が流れ出す。

 さすれば、人間同様失血死するのは時間の問題。

 ところがどっこい、これまた不幸中の幸い。

 キャンディのあべこべクイックのおかげで、体液が流れ出すのもゆっくりになっていたのた。

「この役立たずのゴキブリが!」

 黒いローブの男が、三度、テコイに向けて黒い霧を吹きつけはじめた。


 転がるヒイロのそばでペン子が叫んだ!

「ライムはん! 今のうちに与えられし力で、ヒイロはんの傷の回復しておくんなましでアリンス!」

 あっ! あの力の事ね!

 ようやく理解したライムは、力強くうなずいた。

 ライムの体が赤く光ると、水風船が割れるかのようにはじけとぶ。

 白きコスチュームがボチョという嫌な音共に地面に落ちた。

 その白きコスチュームから、ゾンビのように溶けたライムの顔が……

 はみ出た目玉からはなんと、赤き体液がピュッピュッと飛び散っているではないか。

 ア¨ア¨アァァァァァ……

 まさにスプラッター!

 そこに美少女の面影などまるでない。

 あ゛あ゛あぁぁぁぁぁ……

 ライムの溶け落ちる手が何かを掴もうと伸びるも、その表面がだらだらと解け落ちていく。

 腐っていやがる……

 もはやホラー映画さながらの光景。


「速攻! 回復だワン!」

「ミーニャも回復するにゃ~!」

 ヌイとミーニャがヒイロのカバンから取り出した超回復薬の蓋をくるりと回すと、ライムの体にドバドバとかけだした。

 地面に転がる何本もの茶色いビン。

 ラベルに書かれた大々的なキャッチフレーズが目を引いた。

『ゾンビでも勃ちあがる! これでアナタの息子も進撃の巨人!』

【商品名】「チン造を 捧げよ!」

【原材料名】マムシ粉末、オットセイ睾丸粉末、鹿茸ろくじょう粉末、スズメバチの子粉末、ウミヘビ粉末、ゴリラの金魂粉末、酢こんぶ、イチゴ牛乳抽出液、ダークマターなどなど

 これで起き上がらなければインポ確定!

「起きんかい! ワレ! 起きんかい!」

 ウルルが、すかさず気付けと称してびんたを入れた。

 ぱん! ぱん! パンっ!

 顔を真っ赤にはらすライム

「ウルル! ストップ! もういい! もういい! 回復したから大丈夫!」

 その様子を見たペン子が慌てて駆けつける。

「アチキも回復薬を使うでアリンスよ!」

 ペン子がすかさずライムのお尻に茶色いビンの先を突っ込んだ。

 ブス!

「いたぁぁぁぁい!」

「ライムはん! 許してでアリンス! ヒヤシンス! 場所を間違えんしたでアリンスよ!」

 にやりと笑うペン子

「私の後ろの初めてがぁぁぁぁぁぁ!」

「大丈夫でアリンス! ライムさんも自分にダメージ転嫁すればいいのでアリンス!」

「自分に自分のダメージを転嫁してどうすんのよ!」

「なら、後ろが先に大人の女性になったってことでいいんでありせんか?」

「そんな訳ないだろうが! 私は前も後ろも初めてはヒイロって決めてたのよ!」

「まぁ、なくなったものは仕方あらしません!」

「あっ! 私、スライムだから再生できたんだ……」

「ちっ!」 


 ゲホ……

 頭を振り、なんとか起き上がろうとするヒイロ。

 その潜水帽から、血の混じった唾が吐き出された。

 どうやら、なんとか一命はとりとめたようである。


「ヒイロ!」

「ヒイロっち!」

「ヒイロにゃーん!」

「こわいですぅ!」

「ヒイロはん!」

 5人の女の子が、一斉にヒイロに飛びついた。


「ちょっと待て! まだ、おれ、本調子じゃないから! って、お前ら……だれ?」

 えっ?

 固まる5人の女の子。

 そう言えば、ヒイロは自分たちの事、まだ知らないんだったっけ……


 ヒイロの前で正座をするライムたち。

 実は……カクカクしかじかで……

 ふむふむ……

 今までの事を説明する少女たち。

 それを黙って聞くヒイロ。

 その横では、復活したテコイとアリエーヌたちが激しいバトルを繰り広げていた。


「という事は、俺のパンツを脱がしていたのはお前たちか!」

「スミマセ~ン♥」

 ライムが、自分の後頭部に手を当てて頭を下げた。

 だが、絶対に反省していない!

 だって、その顔、ベロをだし笑っているもん。


「ヒイロはん、うちはやめとけって言ったんであリンスよ! そんな、殿方の寝込みを襲うような卑怯な真似は、イカンって言うたでアリンスよ!」

「でも、そう言いうペン子っちが、一番ノリノリで飲んでいたワン!」

「そうだにゃぁ! ミーニャももっとたくさん飲んでれば、もっともっと胸が大きくなっていたのにゃぁ~!」

「ウルルももっと飲みたかったですぅ……」


「お前たち……念のために聞くが、俺の大切な息子の体をこすって、エッチな事をしてないよな? その、なんだ、俺の息子の口から白い魂など吸い出していないよな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る