第67話 断頭執行コンサート開幕(2)
マッケンテンナ家の門の前に何本も並べられた長机の脇で、キャンペーンガールが声を上げていた。
「はい! 感染症予防の観点から、こちらで血液検査をしております。入場前に皆さまこの紙に指を押し付けてください! お願いしま~す」
来場した人々は、次々にその机の上に置かれた紙に指を押し付ける。
しかし、紙は白いまま。
「ハイ! 大丈夫で~す」
キャンペーンガールが笑顔で答えると、人々は何事もなかったかのように、マッケンテンナ家の門をくぐっていった。
そんな入場者の列にドレスの女が4人並んでいた。
赤、青、白、緑のドレスである。
そのドレスの女たちの後ろには付き人が付き従っている。
その女たち、おそらく身分の高い者たちなのだろう。
先頭の赤いドレスを着た女は少々イライラしているようだが、他三人はなんだか楽しそうにおしゃべりをしていた。
そんな三人を振り返り大声を上げる。
「これは遊びではないのじゃ!」
はて、このしゃべり方、どこかで?
その様子に少々あきれた青いドレスの女がイラつく先頭の女に声をかけた。
「何、イライラしてはりますの? アリエーヌはん」
白いドレスに明らかにミスマッチな大剣を背負う女も大声で笑う。
「そうだぞ! アリエーヌ! 焦る必要はないんだ! お前はもう婚約をしているではないか! 奴とは次元が違うのだよ! 次元が! わははっははは」
その陰で、緑のドレスの女も何かつぶやいている。
「29780499……」
アリエーヌは、頬を膨らませて三人を睨む。
「これは由々しき問題なのじゃ! マーカス様が、ワラワではなくアイドルごときに心を寄せているなど許せないのじゃ!」
青いドレスのキャンディはため息をつく。
「なら、アリエーヌはん、どないするつもりですの?」
そんなキャンディを睨みつけるアリエーヌ。
「決まっておるじゃろ! くそアイドルを叩き潰すのじゃ!」
その威勢に興味を示した白いドレスのグラマディ。
「おっ! 叩き潰すのなら俺に任せろ!」
「おぬしはバカなのじゃ! 本当に叩き潰しても意味がないのじゃ!」
「なら、どうしなはるの?」
「フフフフ、ウフフフフ」
不気味な笑みを浮かべるアリエーヌ。
もう、いやな予感しかしません。
そんな馬鹿を言っているうちに、血液検査の順番が来た4人。
それぞれが、紙に指を押し付けた。
アリエーヌの紙は白いまま。
「ハイ! 大丈夫で~す。お通りくださ~い!」
グラマディもキャンディも白いまま。
「ハイ! 大丈夫で~す」
しかし、グラスが指を離した紙は、青くにじんでいた。
それを見るキャンペーンガールの顔色が変わった。
「え~っと、感染症の疑いがあるので、ちょっとこちらに来ていただけませんか?」
キャンペーンガールは、グラスの手を握ると強く引き寄せた。
それを強く拒むグラスの顔は引きつった。
その様子を見たアリエーヌの顔も引きつった。
まずい! まずいのじゃ!
咄嗟にアリエーヌは、キャンペーンガールの手を払い制止する。
――円周率の詠唱が止まっておるのじゃ!
「貴様! 何をしているのかわかっておるのか! この者はワラワの友人! しかもエアハート家の3女であるぞ! 無礼ではないか!」
アリエーヌの剣幕を見たキャンペーンガールはひるんだ。
目の前にいるのはキサラ王国の王女様。
さすがに王女に対する無礼は、王国の守備兵に逮捕されて文句は言えない。
しかし、ここでグラスを見過ごせば、ドグスの命に背いた自分の命に危険が迫る。
行くも地獄、帰るも地獄。
キャンペーンガールの手がプルプルと小刻みに震えていた。
そんな、状況を見かねたのか後方に控えていた執事風の男が、キャンペーンガールに耳打ちした。
「目星はついた。構わん。通せ」
その瞬間、キャンペーンガールの顔色が和らいだ。
「誤診のようなので、大丈夫で~す。お入りくださ~い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます