第66話 断頭執行コンサート開幕(1)
時刻は夕方の6時。
まだまだ日は高いが、だんだんと赤みを帯びていた。
昼間に蓄えられた熱気が、いまだ地面から立ち上っている。
そして、マッケンテンナ家の敷地内では、すでに大規模なステージが出来上がっていた
いまだ、仕上げをしている職人さんたちの額からも熱気が揺らめく。
汗を拭く職人さん、その数は500人近くいるだろうか。
ドグスが、急に思いついた断頭執行コンサートである。
国中の大工や職人、魔法使いをかき集め、数時間で舞台装置を作り上げていた。
さすがは大金持ちのマッケンテンナ家である。
金に糸目はつけない。
魔法で持ち上げた木材に大工たちがつぎつぎと釘を打って行く。
塗装屋が色を吹き付けたものは、魔術師の魔法を使って速乾仕上げ!
魔法電機の設備など時間のかかるものは、すでに他の施設に納入さている物を無理やり流用させる。
このようのして、金の力で一気に作り上げられたステージは豪華絢爛。
どこぞの国の某秀吉の一夜城ならぬ、ドグスの半日場!
だが、舞台ができても、客を寄せるコンテンツができなければ意味がない。
そこで、ドグスはこのキサラ王国のトップアイドルであるイーヤ=ミーナのコンサートを企画したのである。
しかも、そのミーナが断頭台のヒモを引くのである。
ズッコン! バッコン! と刃が落ちる!
歌と血しぶきのスペクタクルなショー!
アイドル好きも! 歌好きも! ついでに持ってグロ好きも! みんな満足! 大満足!
そして、何よりも、自分の息子であるマーカスたんはイーヤ=ミーナが大のお気に入りなのだ。
マーカスたんは、ヒドラ討伐から帰って以来、自分の部屋にこもって魔法電機で動くテレビの中のミーナことを見てばかり。
そんなマーカスたんを見ながらドグスは思うのである。
――そんなにこの小娘の事が好きなのかい……
本来、ヒドラ討伐が成功した暁には、はれてアリエーヌ第7王女との結婚し王家の一員となる予定だったのだ。
おそらく、そのためにマーカスたんはミーナとの関係を清算した。
部下にその行動を逐一見守らせていたドグスは、そこまで把握していたのだ。
だが、ヒドラ討伐は失敗に終わる。
そして、マーカスたんは、見るも無残なイボガエルのような姿になって戻ってきたのだ。
そんなマーカスたんを見ながらドグスは爪を噛む。
――これもそれも、あのヒイロとかいうボケのせいや! アイツ、なり替わりの腹いせのつもりやろか! だが、まずは、マーカスたんに元気になってもらう事が第一や。ミーナと元のズッコン!バッコン!の関係に戻れば、マーカスたんも元気になるんとちゃうやろか?
今か今かと、マッケンテンナ家の門の前にはコンサートを待ちわびた人だかりが列をなしていた。
そんなにこの国の人間は、人の首が飛ぶのが見たいのだろうか?
いやいやそんなことはない。
断頭そのものには興味がなくとも、イーヤ=ミーナの歌声を聞けるのである。
この国の誰しもがイーヤ=ミーナのファンなのである。
今日のラッキーお新香はタクワン。
男どもはタクワンを片手に列に並ぶ。
先ほどから、その手に持つタクワンが、シリコンのようにふにゃふにゃと揺れて、あたり一面にタクワンの黄色い香りを漂わせていた。
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