第49話 アリエーヌの決意(2)

★念のためのご注意:このお話出てくる【マーカス】と【マーカスたん】は、それぞれ別の人物を表しております。 


 先ほどから、ベッドの上のマーカスたんは、アリエーヌに一切話しかけなかった。

 まるでアリエーヌなど、最初からそこに存在していないかのような扱いなのだ。

 ――やはり怒っておるのか……

 アリエーヌは思う。

 魔獣を持っていないマーカスは、もしかしたら、朱雀たちの力を持つマチョコットクルクルクルセイダーズの力を当てにしていたのかもしれない。

 婚約して長い時間たっているのだ。

 アリエーヌが、マーカス自身に魔獣がいないことに気づいていてもおかしくないと思っていたかもしれない。

 にもかかわらず、アリエーヌは助けにもいかない。

 それどころか、国王から出された結婚の条件とはいえ、それを止めなかったのだ。

 結果、こんな体になってしまった。

 ――もしかしたらマーカスは、すべてワラワのせいだと思っているのかもしれないのじゃ……


 アリエーヌは意を決したかのようにマーカスたんに向けて声をかけた。

「あの……マーカス……」


 しかし、ベッドの上のマーカスたんは、完全無視。

 先ほどから、両手にもつうちわを大きく降りながら、激しい動きで音頭を取っている。

 その動きとともに頭に巻いた長いピンクのハチマキがテンポよく跳ねまくっていた。

「ミーナ! ミーナ! イイ女! ハイ! ハイ! ハイハイハイ!」

 ベッドの上のマーカスたんの前には、巨大なテレビがあった。

 この世界にテレビ?

 あるんですよ!

 魔法電気で動くテレビが!

 しかも、マッケンテンナ家は超金持ち。

 大型テレビぐらい、簡単に作れてしまいますわ!

 ということで、その画面には、この国のトップアイドル【イーヤ=ミーナ】が歌って踊っていたのだ。

 その歌に合わせて、マーカスたんが、先ほどから合の手を入れている。

「カバ! カバ! ガバガバガバ! 私の彼は発情期! イエイ!」 

 マーカスたんがジャンプすると、ベッドが大きく弾んだ。


 アリエーヌがいくら声をかけても、その声はマーカスたんには届かない。

 仕方ないアリエーヌはミーナの映像が終わるのをひたすら待った。


 ベッドの上で、膝に手をやり、肩で息をするマーカスたん。

 そのぶつぶつの皮膚からは、汗がぼとぼとと流れ落ちていた。

「おい! 飲み物!」

 マーカスたんは、手だけを突き出し、言葉を発する。

 だが、この部屋にはマーカスたんとアリエーヌしかいない。

 ということは、この言葉はアリエーヌに向けられたものなのだろうか。

 アリエーヌは、きょとんとしながらマーカスたんを見つめていた。

 その様子に腹が立ったのか、マーカスたんは、顔を上げ怒鳴る。

「お前だよ! お前しかいないだろうが! このボケ女!」

 その言葉に驚くアリエーヌ。

 こんな命令口調は生まれてこの方受けたことがない。

 いや、騎士養成学校で、マーカスが発する言葉は確かに偉そうだった。

 だが、どことなく優しさとぬくもりがこもっていたのだ。

 しかし、今、目の前のマーカスたんが発する言葉には、それがない。

 ただの命令なのである。

 王女であるアリエーヌに対して、このような無礼。

 国王の【コラコマッティア=ヘンダーゾン】が聞けば、アリエーヌとの婚約は確実に破談となることは間違いなかった。

 だが、アリエーヌは大きく深呼吸をすると、脇にあったグラスをマーカスたんに運んだ。


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