第48話 アリエーヌの決意(1)
★念のためのご注意:このお話出てくる【マーカス】と【マーカスたん】は、それぞれ別の人物を表しております。
アリエーヌは、どうしたものかと困っていた。
ここはマッケンテンナ家にあるマーカスたんの部屋である。
小学校の教室二つ分はあろうかという広さ、その片隅に置かれた一つアンティーク調の椅子にアリエーヌはポツンと座っていた。
無駄に広い部屋の真ん中には、キングサイズよりも大きなベッドが一つ堂々と置かれている。
そのベッドの四隅から立ち上げられた柱からはシルクの天蓋が窓から吹き込む朝の風に揺れていた。
そのベッドの上では、先ほどからマーカスたんがパジャマ姿で踊っているのである。
食べ終わったばかりなのかベッドの横にはほとんど食べられていない遅めの朝食のトレーが乱雑に置かれていた。
ベッドの上のマーカスたんの顔には昨日のヒドラ討伐の後遺症が生々しく残っていた。
顔中つぶれた水泡の跡でごつごつとでこぼこになり、片方の目は開いているのかつぶれているのかよく分からない状態。
パジャマから見える両の手も黒い斑点とともに大きなぶつぶつができていた。
これでも回復術師たちの懸命な回復魔法によって、毒の症状は完全になくなったのだ。
しかし、身体に残った後遺症はこれ以上の回復が見込めなかった。
だが、見てくれは悪いものの命に別状はない。
しかも、ヒドラの毒にさらされた際、超高級毒消しをすぐに食べたおかげで、テコイたちに比べると体の欠損などがないのである。
その点、不幸中の幸いと言えば幸いなのである。
だが、当のマーカスたんは初めてのモンスター討伐で、いきなりこのような悲惨な状態に陥ったのである。
当然、その心理的ダメージは計り知れない。
よほどトラウマになったのだろうか、そのため、いまだにベッドから降りてこようとしない。
おびえるマーカスたんは、昨日、マッケンテンナ家に帰ってからと言うもの、すべての生活をこの大きなベッドの上だけでこなしていたのである。
当然、排尿もである。
その証拠にベッドの脇には尿瓶が黄色い液体を揺らしていた。
この液体は先ほど精製されたものなのだろう。
尿瓶の口から、なんだか生暖かいアンモニア臭がほんわりと漂ってくるようだ。
お見舞いに来たもののする事のないアリエーヌは、先ほどから手持ち無沙汰。
ベッドの上で踊り狂うマーカスを見つめているだけだった。
アリエーヌは思う。
――マーカスは、やはり、ピンクスライムを失っているのじゃろうな。
だからこそ、ダメージ転嫁を使う事すらもできずに、こんな痛々しい姿になってしまっているのだ。
しかも、よくよく考えると、朱雀のヒヨコをはじめ、玄武や青龍、白虎は、チョコットクルクルクルセイダーズの4人を守るためにマーカスの元から離れているではないか。
ピンクスライムを失った今、マーカスが使役する魔獣など一匹もいないのだ。
魔獣使いが一匹も魔獣を持っていないとは。
それは、まるで剣を持たない騎士。魔法を使うことができない魔法使いである。
その強さは普通の村人並みである。
そんな状況で、アリエーヌとの結婚の条件であるヒドラ討伐に向かったのである。
ヒドラ討伐どころか、通常のモンスターにさえ勝つことは難しいだろう。
――無謀すぎる……
だが、マーカスは、そんなことをおくびにも出さずに、笑いながらヒドラ討伐に出かけたのである。
まさにアリエーヌに心配をかけまいといわんばかりにニコニコと。
だが、結果は、目の前のひどい姿のマーカスが表している。
――当然と言えば当然じゃ……
アリエーヌの目に涙が浮かんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます