第28話 なんでパンツを履いてない?(1)
ぼーっと潮風を浴びながら、昔のことを思い出していた俺。
そんな俺の耳に、港の喧騒が入ってきた。
「コラ泥棒が! 今日と言う今日は許さんぞ!」
男の図太い怒鳴り声である。
ふと横を見ると、漁が終わった漁船から、魚を水揚げしているところだった。
豊漁だったのか、コンテナからは魚が入りきらずこぼれ落ちていた。
そんな水揚げをしているコンテナの横で、オッサンが何やら捕まえて怒鳴っているのだ。
おおかた、野良猫が魚をつまみ食いしたのだろう。
港ではよくある光景だ。
おれは、暇つぶしにその様子を覗きに行った。
「どうしたんですか~」
俺は、そのオッサンの手元を覗き込む。
ねじり鉢巻きを巻いたオッサンが、勢い良く振り向き唾を飛ばす。
汚ねぇ……
「どうしたもこうしたも、コイツが魚を食いやがるんだよ。しかも、高級魚ばかり!」
オッサンの手には、その犯人とおぼしき影が足を掴まれ逆さづりにされていた。
懸命に逃れようと体をよじるも、オッサンの力からは逃れられない様子。
ついに犯行をゲロったのか、口から魚を吐き出し始めた。
一体、何匹食っていたのであろうか……
「それ見ろ! こんなに食いやがって! もうこれ、売り物にならないだろうが!」
オッサンは、これこれみようがしに犯人を揺さぶった。
さらに魚を吐き出す。
その数、5匹。
うーん、だがその転がる魚たちが高級魚かどうかは俺には、判断つかなかった。
どれもこれも見たことが無い魚ばかりなのである。
俺が見たことがある魚と言えば、人差し指ぐらいの干からびた魚。
それを頭からカリカリとかじるのである。
しかも、30分ぐらいかけて……だって、すぐに食べてしまったら、腹減るだろ。
すでに犯人は、全て吐き出し力尽きたのか口から舌を垂らし動かなくなっていた。
はて? コイツ……どこかで見たことがあるような?
そう、目の前につるされているのは、猫ではなく、ペンギンだったのだ。
この辺りには野生のペンギンが生息しているのかだって?
キサラ王国は一応、温帯地域。ペンギンの生息域からは遠く離れている。
ということは、大方、誰かが飼っていたペンギンが逃げ出したのだろう。
しかもこのペンギン、どことなく見覚えがあるのだ。
そう、たしか騎士養成学校にいた時に、アリエーヌのタオルを盗んだペンギンにそっくり。
あの時エサでおびき出し、テイムして、その跡をついて行けばずぶ濡れの子犬が丸まっていたんだよな……アリエーヌのタオルで包まれた……でも……もう冷たくなっていて……アリエーヌのタオルは、返さないといけないから、代わりに俺の制服で包んで、埋葬したんだったけな……
あの時も魚盗みに来ていたな……ペンギン
でも、子犬を埋葬した後、気づいたらいなくなってたんだよね……
そういえば、あの時、借りたのアリエーヌとグラスのタオル、まだ返していなかったっけな。
アリエーヌの大切なタオル……
アリエーヌのお父さんからの唯一のプレゼント……
いつか、ちゃんと返さないといけないな……
俺を見つめたペンギンは、何かに気づいたかのように力任せに体を振った。
咄嗟の動きにオッサンの手が離れる。
その隙に、ペンギンが急いで俺の影の中へと逃げ込んだ。
「よう……兄ちゃん……そのペンギン……お前の使い魔か!」
「えっ……?」
「なら、そいつが食った魚の代金、きっちり払ってもらおうか!」
俺の財布からなけなしの500ゼニーが消えた。
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