第29話 なんでパンツを履いてない?(2)

 俺は、とぼとぼと自分の倉庫に戻る。

 先ほどまであった所持金が、あっという間に0になったのだ。

 これからの生活どうしよう……

 貧乏ながらも計画的な俺の性分。

 この深刻な状態がもたらす不安はご理解していただけるだろうか。

 せっかく部屋を格安で借りれたと思ったら、手持ちの所持金がなくなった。

 そして、仕事は今はない……

 安いと思っていた10ゼニーの家賃でさえ、今の俺には高額に思える。

 まぁ唯一の救いと言えば、あの漁師さん、ペンギンが吐き出した高級魚をその辺の袋に入れて持たせてくれた。

 これで今日の晩ごはんは何とかなるか。

 めっちゃ優しいやん、あのオッサン!

 だが、明日からどうしよう、何食べよう……もう、テコイたちがいる酒場にも行けないし。

 とりあえず、この魚をさばいて干物にでもするか……

 5匹もあれば、5日分の食料にはなるだろう。


 借りた倉庫のドアをガチャリと開けて中に入った。

 誰もいない倉庫はシーンと静まり返っていた。

 当然である。俺しかいないのだから。音がした方が怖いわい!

 ビョイ~ん!

 だが、中に入った瞬間、俺の影からペンギンが飛び出した。

 呼び出してもないのに勝手に出てきたのだ。

 コイツ、俺にテイムされているという自覚は無いのだろうか?

 そもそも、テイムされれば、魔獣使いの言いつけは絶対のはずなのだ……

 だから魔獣使いを生業とする奴らの中には低俗な輩がいて、そういった奴は、好んでエルフやサキュバスを使役するのだ。

「服を脱げ!」

「奉仕しろ!」

 あぁ……もう、うらやましい……

 所詮、俺が使役できるのはペンギンですよ……ペンギン。

 あっ、それと今は……レッドスライムね。

 以前には、確かに他にもいたよ。4匹の仲間。

 朱雀や白虎、玄武、青龍たち。

 でも、おれの魔獣どもはどいつもこいつも本当に言うことを聞かない。

 あの時もそうだった。

 魔王討伐の最終決戦、圧倒的な破壊力の前でなすすべもなかった。

 魔王の一撃を受けたちまち瀕死の状態に陥っていた俺は、四匹の魔獣たちに命じた。

 アリエーヌたちを守るためにも、彼女たちを連れて退却しろと。

 しかし、四匹の魔獣はテイムされているくせに言うことを聞かない。

 共に戦うと懸命に訴えるのだ。

 だが俺は、チョコットクルクルクルセイダーズの四人を守れるのは、お前たちしかいないと、引き裂かれる思いで声を絞り出す。

 ようやくその意をくんで俺の元を離れてくれたのだ。

 本当にもう……最初から、ちゃっちゃと行けよ!

 そういえば、あいつら、今でも俺の言いつけを守りアリエーヌたちを守護しているはず。

 今すぐ迎えに行きたいのだが……それはできない。

 いまや彼女たちは、魔王を打ち破った英雄なのだ。

 褒めたたえる者の陰で、ねたむものも多い。

 だが、そんな彼女たちを俺は守ることができない。

 俺は、もう、【マーカス=マッケンテンナ】ではないのだ。

 ただの【ヒイロ=プーア】。

 アイツらとは、全く面識のない貧しい男なのだ。

 それどころか、今の俺の体はボロボロ。

 元気にふるまっているが、低俗なモンスターとのバトルでさえ、俺一人ではとても無理な状態なのである。

 とくに体の中の魔力回路、すなわち魔法を体の中から外へと通す道はズタボロ……

 いまや、初級の回復魔法を使うのがやっとなのだ……

 そんな初級魔法でさえも、魔法を唱えると痛みで手が震える。

 だから、レッドスライムの回復にも2日もかかってしまったのだ。

 お笑いだろ……

 こんな俺が今、彼女たちのもとに駆けつけても役に立つはずがないだろう……

 ならばこそ、魔獣たちを彼女の守護獣としておいておけば、その力の加護がある。

 アリエーヌには朱雀のスピード

 グラマディには白虎の力

 キャンディには青龍の魔力とデバフ効果

 グラスには玄武の鉄壁の防御力

 おそらく、少々の暗殺者ごときでは後れは取らないはずだ。

 アイツらが傍にいれば、彼女たちは大丈夫……きっと、大丈夫。


 さて、そんな辛気臭い思い出から戻って、暗い倉庫の中。

 俺の影から飛び出したペンギンは、地面に着地すると同時に俺の手にある袋を奪った。

 口ばしでパクリとつかむと、一気にひったくる。

 あっ! それは俺の晩飯!

 そう、その袋には俺のなけなしの金で買った魚5匹が入っているのだ。

 これを奪われたら、今日のご飯はなくなってしまう。

 そう思ったときには遅かった。

 ペンギンは閉まりかけているドアへと一目散に駆けだすと、閉まる直前のほんのわずかな隙間から外へと飛び出していった。

「なにすんねん!」

 俺が振り向いた時には、もう、奴の姿はなかった!

 ――くそっ! 早いな!

 だが、俺は、ふと思う……

 あれ……この光景……どこかで見たことがあるような……デジャヴュ?



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