第24話 俺のドアが開くとき(3)


 だから、この部屋には俺自身の道具以上に、大人の道具がいっぱい置いてあるのだ。

 すでに鍵を奪われた俺にとって、ここはもう、俺の部屋ではないのだ。

 まぁ、家賃は今月分までは大家のおばあちゃんに払ってあるから、まぁいいや。

 後のことは知らん。


 ということで、荷物をまとめる俺。

 ローテーションで洗濯していた服を着る。

 部屋干しのためか、少々かび臭い。

 あとは、部屋の片隅の道具を引きずり出してリュックサックに詰め込む。

 これで引っ越しの準備は完了!

 ただこれだけの簡単な作業である。


 慰謝料として大人の道具とローションを少々、リュックサックに詰め込んで、俺は部屋を後にした。


 さてさて、これからどないしようかな……

 途方に暮れる俺。


 とりあえず、お世話になった大家のおばあちゃんに挨拶でも言っておくか。

 俺は、その足でアパートの隣に住むおばあちゃんの家のドアをたたいた。


 あっ! ドア……大家のおばあちゃんに言って開けてもらったらよかったんだ!

 なんていったって隣だしね。

 って、開いていたからそんなの関係ねぇ! てか。


 古臭い玄関が、がらがらがらという乾いた音をたてる。

 玄関を開けるとそこにはいつも通り、頭に白いキノコと思えるような白髪を束ねたおばあちゃんが立っていた。

「なんだい?」

 鼻にかかる眼鏡を指で押し上げる。

 腰が曲がっている割には、その眼光は鋭い。

 実はこのおばあちゃん、この二丁目近辺一帯の地主である

 港の倉庫やアパートなど、あらゆるところに賃貸用の物件を持っているのだ。

 俺は、玄関先で頭を下げた。

「今までお世話になりました」

 その言葉に驚いたのか、おばあさんは、すっとんきょうな声を上げた。

「えっ! あんさん出ていくのかい?」

 はい……実はかくかくしかじかでして……

 俺は、昨日の出来事を包み隠さず話した。

 あっ、アキコさんの事は関係ないから省略ね!

「だから、そういう事で鍵はお返し出来ないんです……本当にもしわけございません!」

 おばあさんは、玄関先で腰を下ろし腕を組みながら俺の話を静かに聞いていた。

「そうかい……分かったよ。あとは、そのテコイとかいうやつから家賃を貰うとするかね。ただね……あんさんは、この町では珍しく家賃を毎月きっちり払ってくれたからね……すこし、さびしくなるね」

 はははは、そんな当たり前のことで褒められるなんて、少々こそばい気がする。

「で、あんさん、行くとこあるのかい?」

「いや、これから探すところです……」

「そうかい……で、やっぱり仕事は冒険者を続けるのかい?」

 俺は頭をかきながら少し考えた。

 今や人気職の魔獣使い。供給過多となり魔獣使いがいないパーティなど、この王国にはないのである。

 そんな中で、LV1のモンスターしかテイムできない魔獣使いを雇ってくれるパーティなど、はっきり言って皆無。

 だが、自分一人で冒険に出かけても、それはそれで面白くない。

 魔獣がいるだろって?

 俺が今一緒にいる魔獣は、レッドスライムのライムだけ。

 俺とライム二人では心もとない。というか、心細い……寂しいのだ。

 やっぱり冒険は仲間とワイワイガヤガヤ楽しくないと。

 そう、例えば【チョコットクルクルクルセイダーズ】みたいに。

 だが、懐かしいが、もう、あのころには戻れない……

「いやぁ、もう、冒険者はいいかなぁって……はははは」

「なら、何をする気だい?」

 あきれたように俺を見上げるおばあさん。

「ペットショップでもしようかと。俺の能力ってLV1のモンスターしかテイムできないから、ペットショップとかいいかなって……はははは」

 おばあさんは俺の目を静かに睨みあげた。

「魔獣を売り飛ばして楽しいかい?」

 その言葉に、俺の顔からうすら笑いが瞬時に消えた。

「売り飛ばす! そんな事、考えてませんよ! 少しでも魔獣と人間が仲良くできるように橋渡しがしたいだけですよ!」

 その言葉を聞いたおばあさんの表情が急に笑顔に変わった。

「そうかい……そうかい……あんさんもか、やっぱりか。さすがに血は争えんと見える……ついといで!」

 そう言い終わると、おばあさんは嬉しそうに草履をはいて外に出た。

 意味が分からない俺は、その後をついていった。


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