恋は振られてからが本番です!

白咲扨

花は散る、恋も散る。

 長く蕾だった桜は、ここぞとばかりに咲き誇る。そんな中、中学校の卒業式はもうすぐ終わり迎える。

 いつもならば長すぎてうんざりする「校長先生のお話」も、これが最後かと思えば自然と聞き入ってしまう。

 ……在校生が最後の歌を歌い始めた。

 ああこれが最後なのか。

 何かが抜ける、喪失感に襲われる。

 中学校生活にいい思い出はなかったが、この虚無感は、僕が中学校生活を楽しんでいた証なのだろう。

 思うと泣けてくる。

 僕は今までの学校生活を振り返り、微かな後悔を感じる。

 最後の学校のチャイムをもっとちゃんと聞いとけばよかっただとか、しょうもない事ばかりだが。

 僕がそう考えていると、歌詞は二番に入った。

 二番からは僕達卒業生も歌った。

 この曲を歌っている間は、不思議と先程までの虚無感を感じなかった。 

 そして、長かったようで短かった卒業式が終わり、同級生達は校門で友人と並び写真を撮ったり、お世話になった先生に挨拶をしていたり、友達同士で話し合っていたり、と、僕の目に映る視界の中で、様々な風景が一緒に見られた。

 卒業したという実感をやっと感じた気がする。

 そしてその実感を噛み締めながら僕は今、欠片も人気のない校舎裏に迅速に向かっている。

 何故か?と疑問を持つ人しかいないだろうから説明すると、僕は、中学校生活最後の日に好きな人に告白すると決め、その相手を校舎裏へ呼び出しているのだ。

 告白する為に呼び出しているのに待たせるのは正直言ってありえない。だから急ぎ足かつ迅速に校舎裏へ向かっているのだ。

 そして校舎裏へ着いた僕は、そわそわと緊張しながら約束の時を待っていた。

 僕の迅速な行動が功を成したのだ。

 ただ早く来すぎたが。

「……そろそろか?」

 体内時計で10分ぐらい経ったところで僕は腕時計を確認した。

 緊張していたからか、僕の想像していた時間の半分しか針は動いていなかった。

 いつも自分の体内時計がそこそこ正確だった事もあり、その事実に少し驚いたが、すぐに告白するという未来の事と共に緊張感を取り戻してしまうので、今の僕には頭の隅にも残らない程度の些細な衝撃となった。

「何て言えばいいだろうか…」

 それから二分くらい経った頃、僕は何と告白すればいいのか迷っていた。

 予め告白の台本のようなものを用意していた筈なのだが、緊張のせいか一文字目も思い出せない。

 その為、急遽何て言えばいいのか考えているのだが、いくら考えても思いつかない。

 正確には、幾つも思いつくが、その言葉じゃ駄目な気がしてくる。

 こういうときは嫌気が差すほど自分が選ぶ言葉が駄目な気がしてくる…。

 ……いや考え過ぎなのかもしれない。

 決めた。シンプルに言おう。

 それが一番良いと、僕は心の底から自分に納得した。

 僕は余りこういう事を考えるのに向かないのだろう。

 そうしている内に、小さな女性らしい足音が聞こえてきた。

 自然と胸の鼓動が早くなっている気がする。

 今日この場に来るような生徒は僕と彼女以外いないだろう。から、足音も含めて確実に彼女だ。

 心臓の音が嫌にうるさい…

「緊張せずに…普通に…気持ち悪がられないように……」

 そう自分に言い聞かせる。

 ………来た。

「あっ」

 その少女僕に気付いたのか走るのを止めゆっくりと歩いてこっちに向かってきた。

「だ、大事な用って何?」

 その可愛らしい声が俺に向かって飛んできた。頭が真っ白になる。

 心臓の音が一層早くなった気がする…。

 そして、なんて言えばいいのか一瞬で忘れてしまった僕は、再度何と言うか考え直す。

 シンプルに……シンプルに………。

 そう自分に言い聞かせながら。

「あっ、あの!僕と、付き合ってくれませんか!」

 緊張し声が高くなりすぎた……。

 そして少し間を開けて返答が帰ってくる。

「………あ、えーーと、その………呼んでくれてあれだけど…用事とかあるから—――」

 目の前の少女は言葉を詰まらせながらそう言った。

 そんななんて断ろうか考えた挙げ句、何も思いつかなかった。みたいな………

 内心、心が折れかける。

 終わった……ばいばい、僕の青春と中学校生活…。

 さっきまでの卒業式での感動はとうに吹き飛び、ただ自分が嫌いになる。

 そして、今の僕が彼女に告白しても振られるのは当たり前か、と、気付いたら納得してしまっていた。

 因みに当たり前の事だが、僕がそう考えている内にも時間は経つ。

 何か、急ぐ理由があるらしい彼女は「やっぱりちょっと急いでるので……じゃあまた!!」と、一言言って、気付いたらまた小走りで校門の方に走っていった。

 そして、人気のない校舎裏に一人取り残された僕は、後悔しか残らなかった中学校生活の苦い思い出を噛み締めながら、十分くらい魂が抜けたかの様に棒立ちになっていた。

 そしてこの時は気付かなかったが、「じゃあ、また。」という、この言葉の意味を、僕は一ヶ月後に知る事になる。

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