秋乃は立哉を笑わせたい 第13笑

如月 仁成

予告編 ゴムの日


 ~ 五月六日(木) ゴムの日 ~

 ※睚眥之怨がいさいのうらみ

  小さい恨みのこと。




 凜々花、クラスの友達とケンカしちってさ。


 ……なんで?


 じゃんけんの時にな? 両手でグーとチー出したらすげえ怒って。


 ……下らない。


 それよりハルキー。いつまで体重計に乗ってるのん?


 ……見ないで。あと、これは体重計ではない。


 そうなん? じゃ、それなに?


 ……ヘルスメーター。


 いっしょやん。


 ……断じて違う。これは健康状況を確認するための機械。あと、ちょっとだけ話しかけるな。


 なんで?


 ……今、酸素より軽い分子だけを狙って肺に取り込んでるところだから。


 そっかー。一、二、三。凜々花な? たまに友達とケンカすっけど、あやまったらまたすぐに仲直り出来てたんよ。


 ……だれが『ちょっと』という単語を三秒と決めた。


 違うん?


 ……せっかく狙いを定めた水素分子を見失ってしまったではないか。


 でもな? 今日は、なにが悪かったのか理由言えって言われてな?


 ……よし。この辺にヘリウムがいるな。


 そんなの知らんよって言ったら、柏木ちゃん、もっと怒り始めて……。


 ……なるほど。生活委員の柏木早苗か。


 うん。


 ……それは、凜々花がジャンケンのルールを破ってでも勝とうとしたことが許せなかったのではないかな。


 えー? でも、凜々花むりくりにでも勝ちたかったから。


 ……たかがジャンケンでも、人それぞれの価値観が出る。


 ほうほう。


 ……実質的な損得が無い場合でも勝ちたい者、勝敗を気にしない者。


 ふむふむ。


 ……ルールの穴を探して出し抜き合いを楽しむ者、正々堂々の勝負を望む者。


 ハルキー、結構増えたよね。


 ……見ないで。これはゴムスカートがすべて悪い。


 そしたら、真面目に勝負しないでごめんねって謝ればいいの?


 ……下手にズルしてごめんと謝ったところで、柏木の怒りが治まっていない場合面倒になるだけだ。


 どゆこと?


 ……感情論というものだ。本当はその件で怒り始めたとしても、未だその事件自体に対する怒りが消えていない場合、それではないと後出しするだけ。


 じゃあ、どすればいいん?


 ……もう、気にせず普通に接すればよかろう。


 そっかー。機嫌なおってると良いなあ。


 ……さすれば、次から彼女とは正々堂々の勝負を心がけるが良かろう。


 ハルキーはインチキ中だね。


 ……見ないで。衣類が無い方が正々堂々と言えよう。


 凜々花、イカになりてえ。


 ……唐突だな。なぜ。


 じゃんけんの時にな? グーとチーとパー同時に出せるじゃん。


 ……正々堂々と言った舌の根も乾かぬうち。


 一つ目のチーが相手のグーに負けてもさ、二機目のチーが勝つかもしれんやん?


 ……イカに、チーは無理だろう。


 まじか!? 凜々花、チー好きなのに……。イカ、存外使えねえ……。


 ……何人がかりで挑んでも、無駄な抵抗。所詮チーはチー。グーには一生勝てんのだ。


 ねえハルキー。パンツは無駄な抵抗ちゃうん?


 ……見ないで。


 あとな? 舞浜ちゃん、今、イカの着ぐるみで外に出て行ったんだけど。


 ……見ないで。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る