初恋の相手は宇宙人

@pu8

初恋の相手は宇宙人


 在り来りな光景。

 言い換えればベタなんだけど……

 私は今校舎の中庭に呼び出されている。

 で、告白された。


 ここまではヨシ。


 問題はここからだった。


「好きって……へっ!? 私の事!?」


「好きです……駄目ですか?」


 まぁ私は可愛い方だし、告白されるのも何回目かだけどさ……

 

「私……女だよ!!? え!? アナタも女だよね!?」


 それも問題だったんだけど、そんなのちっぽけだと思える程の問題がコチラ。


「っていうか、えっ!? 今なんて言った?」


「私、宇宙人なんです」  


 私、三環詩音さんかんしおん15歳。宇宙人♀に告白されました。


    ◇


 何から整理すればいいのやら。

 とりあえずいきなり断るのも可哀想だから答えは保留中。


 告白してきた子は2ヶ月前に転校してきた天音宇宙あまねそらさん。

 宇宙と描いてソラと読む。

 名前からすでに自己紹介しているとは……


 いやいや!?なに信じてるの?

 嘘だよね?冗談だよね?


 でも天音さんは滅茶苦茶大人しくて、ウソを付くようなタイプの人間ではない。

 いや、宇宙人だからこの場合……


「あーーー!! 知らんし!!! 何で私が悩まにゃならんのよ!!? えっ!!?」


「詩音、授業中だぞ。どうした? 青春が爆発したか? あれか、メン○か?」


「生○じゃないっつーの!! つか担任がそんな発言すんな!! アホ!!」


 担任の堂ヶ島に茶々をいれられ、少しだけ落ち着きを取り戻す。

 山奥の学校だからかこんなセクハラ発言も許される。

 卒業して早くこんな所出てってやる。

 

「詩音ちゃん、大丈夫? 何か嫌な事とかあったの?」


「雫……いや、それが…………ここじゃちょっと言いにくいや。放課後神社で話すね」


 この子は雨谷雫あまやしずく

 町長の娘で私と同じくらい可愛い。

 いや、毛の差で私の方が可愛いけど。


 山奥の狭い田舎町だから、この辺じゃ町長は総理大臣よりも偉い。

 町長命令で、18歳未満は携帯電話を所持する事は禁止。

 インターネットも授業以外禁止。

 町の外に出るには町長の許可が必要。

 広場には歴代町長のデカイ銅像が立っている。

 北の国かっつーの。


 学校が終わり、いつもの神社で雫と駄弁っている。


「もうすぐ受験だね。詩音ちゃん、西高にするんだよね?」


「私は頭悪いから。雫は一高でしょ? いーなー、お嬢様は。お互い離れ離れだね」


「わ、私、手紙送るね。寂しくなったら夜電話しよ?」


「もー、雫はウブだなぁ。バイトしてスマホ買えばいいじゃん?」


 こんな山奥だから、高校は隣の隣の隣町までいかないと無い。

 私は寮生活。雫は多分送り迎えで、この北の国から脱北出来ないんだろうな。


「それでさ、さっきの事なんだけど……私、天音さんに告白された。で、彼女宇宙人だって」


「………………ふぇ?」


 そりゃそうなるよね。

 私だってそうなったもん。

 それでも雫なりに答えを出そうと唸っている。


「そ、えっ………………ふぇっ!?」


 答え出ず。

 ごめんね雫、こんな事に巻き込んで……


「あー、ゴメンね。帰ってゆっくり考えるから気にしないで?」


「し、詩音ちゃんはどうしたいの? 私は詩音ちゃんが宇宙人でもお友達だよ」


 私は宇宙人じゃないからね?

 どうしたいか……か。


「ありがと。なんか答えでそうかも」


「うん、また明日ね」


 家までの帰り道、ふと空を見上げた。

 星が輝き始め、どこまでも宇宙が広がる。

 こんな田舎だけど、この空だけは良い所だと思う。


「星、綺麗ですよね」


「うん、こんな所だけど空気だけは綺麗だから……ってえっ!!? 天音さん!!? 何時からいたの?」


「今来ました。自由に移動出来るので」


 そう言って目の前から姿を消したかと思うと真後ろに突然現れた。

 まるで瞬間移動している様な……


「す、凄くない!!? えっ!? ナニソレ!? もう一回やってよ!」


 目の前でビュンビュンと移動している。

 兄ちゃんの本で見た事がある。

 SFってヤツだ……


「ねぇ、私も移動出来る?」


「手を繋げば……でも、信じてないと出来ないかもしれません。」


「信じる信じる! あのさ、東京に連れてって。一番おまちな所!!」


「……ふふっ。いいですよ」


 そう言って彼女と手を繋ぐ。

 柔らかくて暖かい。

 ってなに私は照れてるんだか……


 瞬きをした瞬間、雑音と共に巨大なビルの群れが私の前に現れた。

 正確には私達が現れたんだけど、そんな事どうでもいいくらいに……


「お、お、おまちだーーー!! 東京じゃん!!? ヤバくない!? えっ? 夢? ねぇ天音さん、これ夢?」


「どうでしょう。もし夢なら……素敵な夢ですね」


 テレビで見た事のある景色。

 お祭りでもこんなに人がいる事は無い。

 見るものすべてが、私を刺激する。


「ねぇ、あっち行ってみようよ」


 そう言って交差点を渡る時、人が多すぎて天音さんとはぐれてしまった。

 あれ?天音さんいないと帰れないよね?


「ちょっと……天音さーん!! どこー!?」


 叫ぶと手を上に上げている人を見かけた。

 走り寄って確認すると、天音さんだった。


「いやー、焦ったよ。手、繋いでて? 離したら駄目だからね」


「わっ………………はい」


 巨大な交差点を渡り、散策する。

 見上げると、街の灯りが強すぎて宇宙が確認出来ない。


「あー、なんかお腹空いたなぁ…………あっ!! サイ○だ!! ねぇ、ここ安くて美味しいって兄ちゃんが言ってたよ。ちょっと入ってみよ?」


 私の町には寂れた食堂が一つだけ。

 そのくせ名前が“メルド”

 フランス語でウンコって意味らしい。


「わぁ……メッチャ安いじゃん。知らん食べ物ばっかり……私結構お金持ってきたから天音さんの分も出すよ」


「で、でも……」


「連れてきてくれたお礼だよ。ね?」


 俯いて頷いている。

 なんだかその姿が可愛らしくて、胸の奥がムズムズした。


 メニュー表に間違い探しが乗っていて、二人で必死に探す。

 これがなかなか難しい。


「えー……あと3つもあるの? 天音さん分かった?」


「……ここと、あとは……ここ。それから…………ここですね」


「凄っ。流石は宇宙人? あははっ」


「信じてくれているんですか?」


「……そりゃぁ、こんな事普通出来ないし……それに…………」


「……?」


「天音さん、ウソを付くような人じゃないもん。見れば分かるよ?」


「詩音さん……」


 料理が来て、二人で分け合って食べる。

 特にこのドリアって奴が滅茶苦茶美味い。


「美味しいー♪ 天音さん、これ美味しいよ?」


「私、猫舌なので……」


 そう言ったので、息を吹きかけ冷ましてから渡した。


「ほら、あーんして」


「っ…………あ、あーん…………わぁ、美味しい……」


「ね! 美味しいよね!」


 初めて食べた料理達。

 この味は、忘れられないし忘れない。


 19時前。

 流石に帰らないと大変な事になりそうだ。


「もう帰んないとだよね。あーあ、さらばおまちよ…………」


「……もし良かったら、また来ますか?」


「うんっ!! 来よう! 約束だよ?」


 そう言って手を繋ぎ、気が付けば静寂に包まれた山奥に戻っていた。

 静かすぎて、耳鳴りがする。


「うわぁ……田舎だなぁ……なんか煙の匂いするし……」


「詩音さん、今日はありがとうございました。素敵な思い出になりました。その……学校での事は忘れて下さい……」


「……なんで? 忘れないよ? ……返事、まだだったよね。まだ好きとか分かんないけど……もっと天音さんの事知りたい。だから……付き合おっか?」


「いっ、いいんですか? 嬉しい……」


「私、恋人とか初めてだから分かんないけどね。とりあえず……キスくらいする?」


「キス…………お、おやすみなさい!」 


 目の前から消えて、一人残される。

 色々ありすぎて、脳みその限界。


 家に帰り、横になって今日あった事を整理しようとしたんだけれど……

 あの光り輝く街並みじゃなくて、どう思い出しても天音さんの顔しか出て来ない。


 ……これってもしかして好きなんじゃ?


 急に恥ずかしくなり、布団に潜る。

 明日、どんな顔すればいいんだろう。


    ◇  


「詩音ちゃん、おはよう」


「おー雫。ねぇ聞いてよ。私さ、昨日おまちのサイ○に行ってドリア食べてきたんだ」 


「…………ふぇ?」


 いきなりこんな事言っても分からないよね。

 雫は悩みながらも答えを出そうとしている。


「詩音さん……おはようございます」


 雫を困らせていると天音さんが登校してきた。

 参った事に、昨日よりも数倍可愛く見えてしまう。

 これが恋のマジックってやつか。


「おっ、お、お、押忍!!」


 テンパって訳のわからないことを言ってしまう。


「ふふっ……昨日はご馳走様でした」


 微笑んでいる彼女を見て、胸の奥が疼く。

 あー、もう。なんでこんなに可愛いのよ?


 授業中も変に意識しちゃって、やらかす度に堂ヶ島にツッコまれる。

 でも、天音さんが笑ってるからいいや。


「まぁ色々あって私達付き合ってるから。雫にしか言わないからね?」


「わぁ……おめでとうございます。こ、恋人ってやつだよね?大人だなぁ……」


「…………」


「天音さん? 雫に何か付いてる?」


「……5年後、雨谷さんに良い人が現れると思います」


「5年後? って事は20歳かぁ……どんな私になってるのかな」


「へぇ……人の未来も見えるの?」


「大まかな未来ですけど……自分の未来は見えませんけどね」


 未来か……

 私はどんな感じなんだろう。

 天音さんと……続いてるのかな?


「詩音さんの未来も見ましょうか?」


「私はいいや。天の邪鬼だからさ、言われた事と反対の未来に進んじゃいそうだし」


 その日から、天音さんと二人で過ごす時間が増えた。

 天音さんは自然が好きで、湖や森の中によく連れて行ってくれた。


 サイ○は私達のお気に入りで、暇さえあれば食べに出かけた。

 猫舌の天音さんの為に、お皿に取り分けて平べったく伸ばすのも慣れたものだ。

  

 手の繋ぎ方が恋人繋ぎに変わった頃、初めてキスをした。

 

 お互い顔が真っ赤になって、そのあと二人して笑った。


 いつしかソラと呼ぶようになって、心の中はソラで満たされていた。


 それから暫くして、夢を見た。


 夢の中で女性が謝っている。


 ゴメンナサイ、アリガトウ、ダイスキ


 朝目が覚めると、心の中にある何かがポッカリと空いていて……誰かがこちらを見ている気がした。

 それがなんなのか思い出せなかった。

 

「詩音ちゃん、まだ元気出ない?」


「うん……なにか大切な事を忘れてる気がするんだけど……なんだっけっかなぁ」


 空を見上げる癖がついた。

 いつからなんだろう。


 空……


 空を見上げると何か思い出しそうで、でも分からなくて。

 空虚な心は埋まらないまま高校生になった。


    ◇


「やっぱおまちは違うなぁ。あんな田舎二度と帰るもんか。あー、雫元気かなぁ」


 第一志望の高校に落ちて、第二志望で受かった高校は県でも一番のおまちの近くだった。


 こっちじゃおまちは方言だって知って、エラく恥をかいた。


 お腹が空くと、ふとサイ○に寄ってしまう。

 まるで何かに吸い寄せられるかの様に。


 一人で間違い探しをしていると、なんとなく向かいを見てしまって……

 ドリアを食べると何故か取皿に平べったく伸ばしてしまう。


 なんでもある夢の様なおまちに来たのに、全然楽しくなくて。


 空を見上げては、何かを満たそうとしていた。


 ふと、すれ違った空気。


 なぜか胸が高鳴る。


 空虚な心がざわめいている。


 振り返ると女性の影がビルの脇に消えていった。

 自然と身体が動く。

 後をつけると、とあるお店の中に入っていった。


「お客様、1名ですか?」


「はい、そ「2名です」


 目と目が合う。

 顔が熱くなり、鼓動は速さを増す。


「…………あの、どなたですか?」


「……一緒に食べませんか?」


 いつもどおり、間違い探しをする。

 向かいには……向かいには誰かがいて……

 聞いてもいないのに、二人分の料理を頼んでしまう。


「あれ……あと3つもあるんだ……どこだろ……」


「ここと……ここと、それからここです」


 料理が来て、いつもどおりドリアを取皿に分けて伸ばす。

 その皿を自然と目の前の女性に渡してしまう。


「っ…………どうして……私に?」


「え? どうして…………猫舌でしょ? あれ?何言ってるんだろう……」


 訳がわからない。

 でも、分かることが2つあって彼女が涙を流している事。

 それから……


「ドリア、美味しいね」


「っ…………どうして? 記憶……消したのに……」


 記憶を……消す……


「……分かんないけど…………私の心にはいつも誰かがいて……笑顔が素敵な人なんだ。曇ってて顔はよく見えないけど、でも素敵なんだよ。彼女は私が好きで……私も彼女が大好きなんだ」


 瞬きをした瞬間、私の地元が目の前に広がっていた。

 あの女性と手を繋いでいる。


「……この町はよく星が見えるから、ここに引っ越してきたんです。ただ、私達の中では決まりがあって……16歳を過ぎるまではこの星の人と親密になってはいけないというルールがありました。まだ身発達な子供に正常な判断は出来ないという理由なんです」


「じゃあ、破っちゃったの?なんで?」


「……どうしても伝えたかった。私の存在を少しでも残したかったんです。結果、掟を破ったので関わった人全ての記憶を消し、この町から去りました」


「……記憶は消せてもさ、想い出は……心までは消せないよ。だって……私の中ではまだ誰かが生きているんだもん。無意識にその人を思う度に、私は空を見上げてる。あなたは……私の大切な人なんでしょ? 私は詩音。あなたは……?」


「…………詩音ちゃん……消した記憶はもう戻らないんだよ。それでも……それでもいいの?」


「……いいよ。だって……あなたも辛かったんでしょ?」


 縛られた糸が切れたように、彼女は私に抱きついてきた。

 懐かしい匂いが私の心を埋めていく。

 新しい記憶が私の心に刻まれる。


 もう無くなることはない。


 初めてしたキスは、二回目の味がした。

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