第13話 ナンパじゃない

『それじゃ、打ち合わせは明日の14時からだから!サボっちゃだめだよ(*´▽`*)』



「はぁ…」

神代からそんなメッセージが届いたのは昨日の事だ。

今日は土曜日。

俺は何故土曜日に学校に行かねばならんのだ…。

やはり副委員の件は断るべきだった。完全にミスった。


俺が休日に外に出かけて喜ぶようになったのはうちの母さんくらいだ。

どうにもこっちに来てから引きこもりになっていた俺の事を良く思っていなかったようだ。


学校に向かう途中でまたピコンとまた神代からメッセージが送られてくる。

『あ、打ち合わせが終わったら、一緒にカフェに行かない?うち、いいお店知ってるよ。もちろん良かったらだけど…|_・)』


…意図が判らん。

俺とカフェなんて行ってどうすんだ??

神代は会ったときから人との距離感のバグっていた人物なので、深い意味はないのかもしれない。が、カフェなんて行ってたら俺のゲームの時間が減る。


既読スルーして俺はさっさと学校に行くことにする。

どうせすぐ会うし、その場で断ることにする。


しかし…休日なのに意外にも学校の生徒がちらほらいるんだな。

うちの制服や体操服を着た生徒たちが電車から降りていた。

特に部活に入っていないので意識したことが無かったが、結構土日でも皆部活で学校に来ているようだ。


ふと前を歩く少女が視界に入った。

前を歩く少女は吹奏楽部なのだろうか。

楽器が入ったような大きめのケースを肩からぶら下げて歩いている。

休日なのに重そうな荷物をぶら下げてご苦労さんな事だ。


そう思っていると彼女はぽとりとポケットから何かを落とした。

けれども彼女はそのまま歩いていってしまう。

どうやら落とし物をしたことに気が付いていないようだ。


「おい、何か落としたぞ」

声を掛けてみるが、微妙に距離があって聞こえなかったのか彼女はそのまま進んでいく。


仕方なく俺は彼女の落とし物を確認する。

いかにも女子高生が持っていそうな財布だ。

面倒だが、財布は届けてやらないと彼女が困るだろうと拾い上げると俺はその財布についていたキーホルダーに驚愕する。


「…嘘だろ!」


それは俺が今はまっているゲーム“狩人モンスター”のマスコットキャラだ。

驚いているのはこのキーホルダーは抽選でたった100名にしか当たらない激レアアイテムだったからだ。

俺も何通も応募したが当たらなかった。

フリマサイトでも滅多にみられず、あっても高額で即売れてしまう人気アイテムだ。

まさか現物を見られるとは…。


ちょっぴり彼女に興味がわいた俺は財布を届けてやるために近づいてもう一度声を掛ける。


「君、財布。財布落としたよ」

「…」


無視。


え?

いやいやいや。

いくら何でもこの距離は聞こえるよね?


「ちょっと、ロングヘア―の君!財布落としたよ!」


無視。

嘘だろ。


念のためもう一度声を掛ける。

「財布!財布落としたって!」



すると彼女はくるっと振り向くといらただしげに声を上げた。

「もうその手のナンパは聞き飽きました!いい加減迷惑です!」


端正な顔した彼女は眉を吊り上げてその勢いのまま俺に詰め寄る。

いきなり凄い剣幕で詰め寄られてちょっとビビる。


「女の子に声を掛けたいなら余所でやってください!毎回いい迷惑なんです!

だいたい財布なんて落としたらふつう気づきま、す…」


そこで、彼女は俺が財布を持っていることに気が付いたらしく、声がしぼんでいく。

彼女はみるみると顔を赤くすると頭を下げてきた。


「す、すみません!」

「…いや、いいよ」


「本当にすみません!私男性に頻繁に声を掛けられるものでつい!」

「うん。わかったから」


ちょっとキーホルダーの話でも聞こうかと思ったが、やめた。

彼女は彼女で色々あるんだろうけど。なんかいきなり怒鳴られて面倒くさくなった。


俺は彼女に財布を渡すとそのまま歩き出す。


「待ってください!あの、何かお礼を!」

「…」


しまった。進行方向が同じだった。

彼女は俺の横に並んで声を掛けてくる。

なんか気まずい。


「別にいいよ」

「そんなことおっしゃらずに!」


走ってこの場から逃げ出したい気もするが、それはそれでなんか恥ずかしい。


その後も彼女はせめて名前だけでも!と何度も聞いてくるのでつい、クラスと名前を言ってしまった。俺はやはり押しに弱いらしい。


俺が名乗ると彼女は名前を教えてくれた。

水城環奈。それが彼女の名前らしい。

一つ上の先輩との事だ。


俺はお礼はいらないと彼女に念を押す。

最近人と関わってろくな事が無いからな。

彼女は本当にありがとうと俺にお辞儀をして学校の玄関前で別れた。


この時は学年も違うし、流石に彼女とはもうこれっきりだろうと思っていた。

…この時は。

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