第7話 変化しつつある日常
「ねえ、村井君。今日このあと皆でハンバーガー食べに行くんだけど一緒に行かない?」
家に帰ろうと席を立つと篠崎がニコニコと近寄ってきて声を掛けてくる。
…またか。
そう。あの日以来、篠崎が何かと俺を誘ってくる。
最初は何かまた俺を笑いものにするために誘ってるのではと疑ったが、なんだか違うみたいだ。
彼女は純粋に善意で遊びに誘ってくれている。
どうもこの間の事で俺に恩義を感じているらしく、ボッチな俺を孤立させないように動いてくれているらしい。
素晴らしい人間性だ。
だが、篠崎。
頼むから周りをよく見てくれ。
周りの連中が明らかに困惑しているぞ。
そして周囲の連中。
安心してくれ、俺も困惑している。
俺を嫌がっている連中がいるのにわざわざ一緒に行く気になれるか!
以前、篠崎にせめてお友達に俺が行くことの了承を取ってから来てほしいとやんわり伝えたら篠崎はニコニコと「村井君もいてもいいよね?」って俺の目の前で皆に確認していた。
そんなの嫌でもいいよって言うよ!
今日はどう断ろうかと考えていると、ちょうど担任が話しかけてくる。
「村井。ちょっといいか?」
ナイス担任。
「篠崎、ごめん。俺この後矢崎先生と話があるんだ」
「…そっかぁ。残念。じゃあ、また今度誘うね!」
今度かぁ。
頼むから篠崎は周囲をもっとよく見てほしい。
篠崎は天然なのか、空気読めないのか、なんなのか…とにかく俺は彼女の事を測りかねていた。
―――――――
「…は? 俺が美化委員?」
「すまん村井。お前にだけ伝え忘れていた。委員決めはお前と篠崎がいない時にしてしまってな」
悪いな。そういってポンポンと俺の肩をたたく担任教師。
いや、ふざけんなよ。
美化委員は不人気No1の委員だ。
各種清掃や植物の手入れ、ゴミの分別の指導。
場合によっては水やりや課外活動でわざわざ土日も活動がある。
絶対に避けたいと思っていた委員だ。
「委員決めに参加できなかったのは理由が理由だから申し訳ないんだがな。立派だよお前は。なかなかできる行動じゃない」
痴漢の件は先生達には連絡が入っている。
なので、当然担任も俺が篠崎を助けたことは知っていた。
「ならその行動に免じて、別の委員に変えてもらうことはできないですか?」
「それとこれとは話が別だ。お前が個別に交渉して交換するのは構わないが。どうだ、やるか?」
「…」
それは嫌だ。
篠崎の一件から前以上にクラスメイト(特に野郎)と距離を感じるようになった。
今日も篠崎が話しかけてきたときに野郎どもが殺気のこもった視線を向けていたし、できればクラスメイトと話したくない。
というか、そもそも交換してくれる気がしない。
「それにな、多分村井は勘違いしているぞ。美化委員は仕事が多いと考えているんだろうが、案外そうでも無い。委員長や副委員長にならない限りはそこまで大変じゃないんだぞ」
「そうなんですか?」
「そうだとも。土日に学校に来るのだって2か月に1回くらいだ」
…。
……はぁ、仕方ないか。
「わかりました。やります」
「おお、良かった!流石だな村井!」
なにが流石なのかわからないが、まあいい。
ようは委員長や副委員長にならないよう断固とした姿勢を見せればいいだけだ。
なんてことは無い。
なんかこの間の痴漢の件から俺の学校生活が思わぬ方向に向かっていってしまっている気がする…。
気のせいだろうか?
ちなみに後で知ったことだが、同じく委員決めに参加できなかった篠崎は人気No1の図書委員になっていたそうだ。
なんだこの差は。
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