第925話 リルはワイバーンネタ好きだな

 2日目午後のプログラムだが、国際会議やテイマーサミットと違ってオークションではない。


「それではこれよりプレゼント交換を行う。参加者はプレゼントを俺に提出してくれ」


 オークションをするには後発組テイマーの懐が心許ない。


 これはテイマー系冒険者としてダンジョンで稼いで来た時間が少ないのだから当然の話だ。


 だからこそ、お金のかかるオークションではなく持ち寄りのプレゼント交換になった。


 そうは言っても、漠然とプレゼントを用意するよう頼んだところで困ってしまうから、テイマー系冒険者として役に立ちそうな物というテーマが設定された。


 各参加者達にラッピングされたプレゼントを提出してもらった後、藍大は説明を続ける。


「今日やるプレゼント交換はクイズ形式で行う。早押しクイズに3問正解した順に自分が用意した物以外のプレゼントを選べるので積極的に回答してくれ。なお、プレゼントの中身は敢えて言わないから開けてみた時のお楽しみってことでよろしく」


 ビンゴではなくクイズ形式にした理由だが、今回の集まりがあくまで合宿だからだ。


 冒険者として知識を高めつつプレゼントも貰える一石二鳥のプログラムである。


 ちなみに、優月と咲夜は他の参加者に比べて幼いため、それぞれパートナーであるユノとアンリもペアとしてクイズに参加して良いことになっている。


「早速始めよう。1問目は俺から出す選択問題だ。DMUに買い取ってもらう際に最も高い査定額になるのは次の3つの内どれ? ①デーモンの角 ②オーガの牙 ③コカトリスの嘴」


「「「・・・「「はい!」」・・・」」」


 藍大が出したのはかなり難易度が低い問題だったので、全員が手を挙げた。


「リル、誰が一番手を挙げるのが速かった?」


『ユノだよ』


「ということで、ユノに答えてもらおう。勿論、答えられるなら優月が答えても良いからどちらが答えるか相談して決めてくれ」


 優月と咲夜が従魔に頼りっ放しなのは悔しいと思うかもしれないから、藍大はそのように付け加えた。


 他の参加者は全員大人だから藍大が口にしたことに異論を挟まなかった。


「ユノ、ぼくがこたえてもいい?」


「良いよ」


「ありがとう。お父さん、こたえは③!」


 ユノは優月を立てることを忘れない。


 それが優月の婚約者としてユノの在り方らしい。


 優月はユノにお礼を言ってから自信満々に答えた。


「正解だ。優月&ユノペアに1ポイント」


「やったねユノ!」


「やったね優月!」


 優月とユノが抱き合って喜ぶ姿はとても微笑ましかった。


 藍大からの出題が終わって次にサクラが口を開く。


「2問目は私からの〇×問題。テイマー系の職業技能ジョブスキルを持たずにテイムすることは可能?」


「「「・・・「「はい!」」・・・」」」


 サクラが出したのもかなり難易度が低い問題だったので、全員が手を挙げた。


 藍大と違ってサクラは誰が真っ先に手を挙げたか見切っており、リルに頼ることなく自分でその者を指名する。


「泰造が速かった。答えて良いよ」


「×です。断じて×です」


「正解。泰造に1ポイント」


 サクラ出した質問は古巣のクランマスターがやらかした泰造にとってボーナス問題でしかなかった。


 クダオのやらかしは日本において忘れてはいけない愚行とされており、DMUが決して真似しないようにと釘を刺した出来事だった。


『次は僕の番だね。このモンスターを倒せたら一人前とされる種族は何かな?』


「「「「「はい!」」」」」


 手を挙げたのはマルオと睦美、泰造、ユノ、アンリである。


『アンリがちょびっとだけ速かったね。答えてごらん』


「ワイバーンです」


『正解。ワイバーンはお肉ってことと一緒に覚えようね』


 (リルはワイバーンネタ好きだな)


 リルの中でワイバーンはお肉であり、その考えを進んで回りに広めている。


 藍大はそんなことを思いながらリルの頭を撫でた。


 この後、パンドラ、ドライザー、エルと質問を出したら出題者が藍大に戻り、どんどん質問を出した。


 結果として、優月&ユノ、睦美、涼子、マルオ、泰造、智仁、咲夜&アンリ、静音、睦月の順番でプレゼントを手にした。


 プレゼントの発表は全員の手元にプレゼントが揃ってから行うことになっていたため、ようやくプレゼントのお披露目タイムである。


「まずは優月とユノがゲットしたプレゼントだな。用意したのは誰だ? 説明を頼む」


 藍大がプレゼントを用意した者に名乗り出て説明を頼むと、涼子が立ち上がった。


「私だね。それは私の一族に伝わる自家製お守りだよ」


「おばあちゃんが作ったの?」


「そうよ。それを持ってると人生で一度だけお願いが叶うってその筋じゃ有名なんだから」


「すご~い! おばあちゃん、ありがとう!」


 ネックレスタイプの民族系お守りを首にかけ、優月は涼子に感謝のハグをした。


 可愛い孫から抱き着かれて喜ばない祖父母はいない。


 涼子は嬉しそうに笑っていた。


「続いて睦美のプレゼントだな。これは誰が用意した?」


「俺だ。中身はロボットアニメの傑作選だ。人形士なら従魔と一緒に学びながら戦闘に活かせると思ってね」


「やはり魔神様のお父様のプレゼントでしたか。一目見ただけでロボットアニメの気配を感じ取れましたよ」


 (モフラーとは違う意味で鋭いな)


 睦美が智仁のプレゼントを選んだ理由を知って藍大は戦慄した。


 睦月は睦美がゲットしたプレゼントを見て羨ましそうにしているから、きっと後で見終わったら貸してほしいと睦美に頼むことだろう。


「次は母さんのプレゼントか。誰が用意したやつ?」


「ぼく」


 手を挙げたのは咲夜だ。


 咲夜が説明するのは難しいと判断したのかアンリがそこから先は話すつもりらしい。


「咲夜が用意したのはドライザーに作ってもらったマントです。素材は咲夜と私が用意したもので、消臭作用がありますから長時間のダンジョンでも臭いません」


「何それ嬉しい。ありがとう、咲夜。それにアンリも」


「うん!」


「どういたしまして」


 咲夜が用意したのは特に女性陣から羨ましがられるプレゼントだった。


 藍大のパーティーならサクラが<完全浄化パーフェクトクリーン>を使ってくれるが、他のパーティーだとそうはいかない。


 涼子は咲夜とアンリを一緒に抱き締めてお礼を言った。


 その後もプレゼントの発表はサクサクと進められた。


 マルオが貰ったのは泰造が用意した簡易ポーションサウナセットだ。


 どこでもサウナを楽しみつつHPも回復できる優れものなんだと泰造が熱弁したのは言うまでもない。


 逆に泰造が貰ったのはマルオが用意した人体模型の的だった。


 これは今年の国際会議で出品された物よりも更に耐久度も再生速度も上がっている逸品である。


 アビリティの試し撃ちや装備の試しにぴったりだから、泰造はありがたく受け取った。


 智仁が受け取ったプレゼントは睦月が用意した物で、智仁と同じくロボットアニメ傑作選だった。


 思考が智仁と同じであり、その上ラインナップは智仁と違ったから智仁は大いに喜んでいた。


 (ロボット好きとロボット好きが奇跡を起こしたか)


 もしもそのプレゼントが人形士以外に選ばれたらどうするんだと藍大は苦笑したが、結果的に人形士の手に渡ったから良しとしよう。


 咲夜とアンリが貰ったのは静音のアロマだった。


 従魔と一緒にリラックスするようにと香りを厳選したものらしい。


 静音が貰ったのは睦美が用意したディオメデホースの革を使ったレザーアーマーだった。


 静音にとっては高級品だが、睦美にとってはあっさり狩れるモンスターなので委縮する静音を睦美が落ち着かせるのに苦労していた。


 サイズ調整は必要だけれど、このレザーアーマーさえあれば序盤のダンジョン探索ではダメージを負う可能性がかなり低くなるだろう。


 睦月がゲットしたのは優月がドライザーに作ってもらったアダマントナイフだった。


 ちょっとやそっとじゃ刃毀れしないし折れ曲がらないから、解体の時に重宝すること間違いなしだ。


「よし。参加者同士のプレゼント交換が終わったところで俺からもプレゼントだ」


 そう言って藍大が参加者全員に渡したのは従魔の手入れ道具だった。


 勿論、プレゼントする相手の職業技能ジョブスキルに合わせたものを用意しており、量産品をただ用意したのとは訳が違った。


「従魔は家族だ。俺からのプレゼントで手入れをして仲良くなる一助としてくれたら嬉しい」


「主が髪を梳かしてくれると嬉しいよ」


『僕もご主人にブラッシングされるのが好きだな』


 サクラとリルの言葉もあり、参加者達は早速今日から使わせていただきますとお礼を言った。


 午後のプログラムも終わり、最後に打ち上げをして魔神軍のテイマー合宿はお開きとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る