第901話 幽体離脱~

 ロキがこの場からいなくなってデウス=エクス=マキナはニッコリ笑った。


「さて、ロキを虚無の牢獄にぶち込んだことだしお待ちかねの報酬タイムに移ろうか」


「虚無の牢獄って何? サラッとえげつなさそうなワードが飛び出したけど」


「虚無の牢獄は虚無の牢獄だよ。何もない亜空間に力を封じて放り込んだだけ」


「うわぁ。それは辛い」


「食事抜きで何もない場所にいるのは辛いね~」


「暇死にしそう」


『ロキには良い薬だよ』


「何もないところで力を封じて放り込まれれば悪さはできないよね」


 デウス=エクス=マキナの説明を聞いて藍大達は苦笑した。


「そんなことはどうだって良いんだよ。それよりも、藍大の両親を生き返らせないとね。と言っても、実はロキと一緒に藍大達を連れて来た時には既に2人をシャングリラの地下神域に生き返らせてたんだけど」


「マジか。マキナ様は仕事ができるね。ちなみに、なんで創世神界じゃなくてシャングリラの地下神域に生き返らせてくれたんだ?」


「魂状態の藍大の両親にこことシャングリラの地下神域のどっちで生き返りたいか訊いたら、後者が良いって言われたからだね」


「あぁ、そういうことか」


 藍大が何か悟った表情になったので舞達は首を傾げた。


「藍大、何かわかったの?」


「舞は父さんと母さんを知ってるからわかるかもしれないけど、あの2人って地味にサプライズが好きなんだよな。だから、俺達がシャングリラの地下神域に帰った時に何かしら仕掛けて来るに違いない」


「納得した~」


 舞も藍大の両親にサプライズを仕掛けられたことがあったため、藍大の言い分を聞いてなるほどと頷いた。


 その一方、サクラ達は藍大の両親について知っている情報が少ないので新鮮な気持ちで藍大と舞の話を聞いていた。


「いつまでも感動の再会の邪魔をする訳にはいかないね。そろそろ向こうに戻る時間だよ。手伝ってくれてありがとね」


 デウス=エクス=マキナが指をパチンと鳴らした瞬間、藍大達はシャングリラの地下神域に戻って来ていた。


 藍大達が地下神域に戻って初めて見たのは今朝は存在しなかった台に直列で並んで寝ている伊邪那美と伊邪那岐だった。


 右向きに伊邪那美の頭があり、伊邪那美の足の先には伊邪那岐の頭がある状態だ。


 服装はいつもの服装ではなく、涼子と智仁が着ていたと藍大が記憶しているものである。


 何があったんだろうと藍大達がじっくり観察しようとしたその時、伊邪那美と伊邪那岐の体からそれぞれ伊邪那美と伊邪那岐の霊体が起き上がった。


「「幽体離脱~」」


「喧しいわ!」


 起き上がった伊邪那美と伊邪那岐ではなく、寝ている2人が口を動かしていたことに気づいた藍大はそちらにツッコんだ。


「「痛い!」」


「自虐ネタは止めろっての。その痛みぐらい甘んじて受け入れろ。それと伊邪那美様と伊邪那岐様は母さんと父さんのくだらないサプライズに加担したから昼食は一品減らす」


「後生なのじゃ! それだけは止めてほしいのじゃ!」


「そうだよ藍大! 僕達は智仁達に藍大を感動させられるからって協力したのに!」


 食いしん坊な伊邪那美と伊邪那岐はちょっと待ってほしいと藍大に抗議した。


 その様子を見て涼子と智仁はケラケラ笑いながら起き上がった。


「おっかしい~。伊邪那美様ったらすっかり藍大に胃袋掴まれてる~」


「伊邪那岐様、こんなので藍大が感動する訳ないじゃん」


「騙すなんてあんまりなのじゃ!」


「それでも神子の家系かい!?」


 大笑いする涼子と智仁に対し、伊邪那美と伊邪那岐はくるっと振り返って2人に詰め寄った。


「主のお母様とお父様すごい」


『完全に伊邪那美様と伊邪那岐様で遊んでるね』


「ご主人の両親はご主人よりもぶっ飛んでる」


 初めて生きている涼子と智仁を目にしたサクラ達は2人が只者ではないと分かって戦慄していた。


 とりあえず、藍大は伊邪那美と伊邪那岐を落ち着かせることにした。


「伊邪那美様も伊邪那岐様も落ち着け。そうしたら、昼食は元通りみんなと同じだけ用意するから」


「落ち着いたのじゃ」


「落ち着いたよ」


 伊邪那美と伊邪那岐は藍大によく訓練されていたため、あっさりと抗議を止めて藍大の後ろに回った。


「ふざけた再会を仕掛けて来た訳だけど、とりあえずお帰り」


「「ただいま」」


 藍大が少し恥ずかしそうに言えば、涼子と智仁は茶化そうとせずに優しく微笑みながら藍大を抱き締めた。


「藍大、大きくなった?」


「身長は大学入った時から伸びてない」


「藍大、体が逞しくなったね」


「そりゃ家族と遊んだり世界を救ったりしたからな」


「藍大が家族と遊ぶのが世界を救うのと同列に扱っておるんじゃが」


「「『伊邪那美様、静かに』」」


「すまんのじゃ」


 藍大と両親の会話を聞いて伊邪那美が思わずツッコんでしまうと、舞とサクラ、リルがそこは黙っておくところだと強めに言い聞かせた。


 涼子と智仁は藍大から離れると改めて舞の方を向いた。


「舞ちゃん、藍大のことを今まで守ってくれてありがとね」


「舞ちゃん、藍大と仲良くしてくれてありがとう」


「いえいえ。私の方こそ藍大にはお財布が厳しい時に支えてもらいましたし、妻としても冒険者仲間としてもいつも助けてもらってます」


 舞がとても上品に応じる姿を見てサクラは目を擦る。


「・・・舞がしっかりした受け答えをしてる? 偽者?」


「サクラ、それ以上酷いこと言うとハグするよ?」


「あっ、これは本物の舞だ」


 ハグしようとすれば舞という認定基準だったらしく、サクラは舞にハグされぬようにリルの後ろに回り込んだ。


 話題がサクラに変わると涼子と智仁はサクラ達の前に移動して挨拶する。


「初めまして。私は藍大の母の逢魔涼子。17歳よ」


「おいおい」


 涼子の17歳ネタに藍大がジト目でツッコめば、サクラは涼子に倣って自己紹介する。


「初めまして。主の第二婦人の逢魔サクラ、6歳です」


「おいおい!?」


 反応したのは智仁だった。


 サクラの見た目で6歳は信じられないから当然である。


 (肉体的には俺や舞と同じぐらいでも、誕生してからって考えると確かに6歳か)


 藍大はそういえばそうだったと思い出した。


 そんな智仁をスルーして涼子はリルに話しかける。


「こんにちは。強そうなフェンリルね。お名前を聞かせてちょうだい」


『こんにちは。僕はリル。ご主人の従魔で”風神獣”だよ』


「あら、しっかりしてるのね。偉いわ~」


『この撫で方、ご主人に似てる』


「そりゃ藍大に動物の撫で方を仕込んだのは私だもの」


『そうだったんだ~』


 リルは涼子に撫でられても微塵も嫌そうにせず、藍大の撫で方を教えたのが涼子だと身をもって納得した。


 涼子がリルを撫でている間に智仁はパンドラに話しかける。


「やあ、知ってると思うけど逢魔智仁だよ。藍大の父親だ」


「僕はパンドラ。”裁神獣”だよ。よろしく」


「アンニュイな感じが良いね。それに君からは優れたツッコミ役の気配がする」


「そんな気配は察しないで」


 智仁が自分から感じ取ってほしくない気配を感じ取るものだから、パンドラはちょっと待ってくれとやんわり注意した。


 ゲンはいつの間にか<絶対守鎧アブソリュートアーマー>を解除しており、藍大の横で涼子と智仁をのんびり観察していた。


「主さん・・・母・・・顔・・・似てる・・・」


「そうだな。顔は母さん似だ。父さんと俺は体形がよく似てるって言われる」


「納得」


 観察が済んで満足したからなのか、ゲンはすやすやと寝息を立て始めた。


 そこに他の家族が集まって来た。


「いい加減アタシ達のことも紹介するのよっ」


『(゚Д゚)ノハロー』


「落ち着くですよ2人共」


「お父さんおかえりー」


「パパたちかえってきたー」


「「「おかえり!」」」


 仲良しトリオが地上にいる家族を全員連れてやって来た。


 それによって逢魔家の顔合わせが本格的に始まった。


 しれっと神々もその後ろに並んでいたせいで、顔合わせの規模が大きくなった。


 そして、伊邪那美達を間近で補佐する楠葉藍大の祖母を見て涼子が固まった。


「げっ、母様」


「げっ、とは何さ。失礼で親不孝者な娘だねぇ」


「あはは、許して。それと生き返っちゃった」


「まったく、家出したまま二度と会えなくなるなんて本当に親不孝者だよ。藍大にちゃんと感謝するんだよ?」


「勿論よ。藍大が可愛いお嫁さんたくさん捕まえて、孫の顔まで見れたんだからとても感謝してるわ」


 この後、舞達食いしん坊ズがお腹を空かせたサインを地下神域に響き渡らせたため、藍大は急いで昼食作りに移った。


 涼子と智仁が藍大の上達した料理の腕前で衝撃を受けたのは言うまでもない。

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