第890話 魔神よ、私を謀る気か? この者は並の女子よりも可愛いぞ

 2月5日の未明、藍大は舞とサクラ、リルと一緒に夢の神域に来ていた。


「こっちの神域に来るのは久し振りかな」


「そうだね。何かあったのかな?」


「司が神器を手に入れたことじゃない?」


『僕もそうだと思うよ。アナザーゲイボルグから強い力を感じたし』


 そんな話をしていると伊邪那美が藍大達の背後から現れる。


「その通りじゃな。司がアナザーゲイボルグを手にしたことも含め、世界中の神々が集まることになったのじゃ」


「マキナ様も?」


「いや、創世神様がいらっしゃることはないぞよ。創世神様は基本的に見守るだけじゃからな」


 デウス=エクス=マキナが夢の神域に姿を現すことはない。


 創世神ともあろう存在がわざわざ下級の神々の会合に来ることはないのだ。


 もしも用事があるならば、デウス=エクス=マキナの方から創世神界に呼び出すだろう。


 他の神々が来るのを待っていたことろに続々と本日の参加者が現れる。


 オルクスとガネーシャ、ヘパイストス、バステト、セトナ、西王母が現れたのはいつも通りとして、ロキの代わりにトールが最後に現れた。


「おう、孫に会いに来たぞ」


「お爺ちゃん? ロキ様はどうしたの?」


「俺の仕事を押し付けて来たから悪させずに働いてるはずだ」


 (その発想はなかったなぁ)


 トールの発言を受けて藍大だけでなく他の神々もその手があったかと感心した。


 ロキは時々余計なことをやらかすが、これはロキに余裕があるからそんなことが起きてしまうのだ。


 それならば、ロキに余計なことをさせる余裕を与えなければ良いと考えてトールは仕事を丸投げしてこの場に来た。


 ロキ対策になることに加え、自分は仕事をしなくて良いし、にも会えるから一石三鳥の手段をトールは選択した訳である。


 これはトールとロキの付き合いが長いからこそ実現したのであって、他の神々がやろうとしても簡単に同じことができる訳ではない。


 トールが舞と話している一方、セトナが藍大達に近づいて来た。


「ナヌークは元気にやってる?」


「今はシャングリラリゾートの神域で寛いでるよ」


「何それ羨ましい。仕事手伝え」


「セトナ様もシャングリラリゾートの神域でワーケーションする?」


「調整して行く」


「わかった。来る時に連絡して」


 セトナは藍大に手を振って自分の席に戻った。


「さて、全員揃ったことじゃし会合を始めるのじゃ。今日集まってもらったのは他でもない。ゲイボルグ=レプリカを含むレプリカ2つとレプリカ級の武器からアナザーゲイボルグが誕生したことじゃ」


「伊邪那美、ドライザーが作った訳じゃねえんだな?」


「そうじゃよヘパイストス。アナザーゲイボルグは藍大の従魔のダンジョンに設置された合成の祠で誕生したのじゃ」


「まさかダンジョンのギミックで新たな神器が誕生するとは驚いたぜ」


 ドライザーにはラストリゾートやゴッドスレイヤーを作成した過去があるから、ドライザーがアナザーゲイボルグも作ったんじゃないかとヘパイストスが訊ねたが、伊邪那美がそれを否定したことで周りの神々が唸った。


 その次に口を開いたのはトールだった。


「そういやチラッと前にロキに聞いたことがある。ゲイボルグって槍は2本存在するってな」


「なんじゃと? スカアハはゲイボルグを2本持っておったのか?」


 スカアハとは影の国の女王として知られている武芸と魔術の達人であり、クー・フーリンの師匠だ。


 彼女はクー・フーリンに武芸と魔術を仕込んだ後、ゲイボルグも授けたと言われている。


 そのゲイボルグが実は2本あったという話を知っている者はこの場にはトール以外おらず、神域内がざわついた。


「俺も詳しくは知らん。ロキは神器のレプリカ作成とか普通にやっちまうだろ? そーいうことができるのもあらゆる知識を持ってるからだ。あいつがそう言ってたってことはそーなんだろうぜ」


「トールの話が本当かどうか怪しいんだな」


「全部ロキのせいニャ」


「日頃の行いのせいですね」


 ガネーシャとバステト、オルクスはトールの言い分を聞いてもそれが本当かどうかわからないと意見した。


 どれだけロキに信用がないのかわかった瞬間だと言えよう。


「主、マキナ母さんなら知ってるんじゃない?」


「なるほど。ちょっと訊いてみるか」


 サクラに言われて藍大がデウス=エクス=マキナに訊ねようとしたところ、向こうからテレパシーを送って来た。


『ゲイボルグは2本あるよ。今回、司が手に入れたのはスカアハが持ってた残りのゲイボルグだね』


 (即レス過ぎてビビる。でも、マキナ様ありがとう)


 藍大は訊ねる前から答えてくれたデウス=エクス=マキナに感謝の気持ちを念じ、それから神域内にいる神々に今聞いた話を共有した。


「創世神様が言うなら間違いなかろう。司はスカアハのゲイボルグに選ばれたということじゃな」


「創世神とテレパシーでやり取りできるとは流石俺の孫!」


「藍大はお主の孫じゃないじゃろうが!」


「孫の夫は孫だろうが!」


 伊邪那美とトールが言い合いになるのはいつものことだ。


 トールが復活してシャングリラの地下神域に入り浸るようになってから、しょっちゅう伊邪那美とバトルになっている。


 これは伊邪那美にとって子供や孫も同然な藍大とその子供達にトールが新参者のくせに馴れ馴れしいと感じているからだ。


 トールからすれば、復活した時には孫が自分の神器を手にする程の実力を持っており、曾孫まで生まれていたのでめいいっぱい甘やかしたいのである。


 家族への愛情ゆえにぶつかるという点では伊邪那美もトールも変わらないのかもしれない。


「伊邪那美様、落ち着こう」


「お爺ちゃんも落ち着いて」


「う、うむ。すまなかったのじゃ」


「わかった」


 藍大と舞に仲裁されたことで伊邪那美もトールもおとなしくなった。


「オホン、ともかく司がアナザーゲイボルグを手に入れた訳じゃが、神器の持ち主が神々からの称号を与えられてないのはいかがなものかと思うのじゃ」


「その考えには賛成なんだな。でも、既に与えられる枠いっぱいまで与えてしまってるんだな」


「私もそうです」


「同じくニャ」


「儂もそうだ」


「得物が違うから効果が薄い」


「相性が未知数」


「だね」


 会合に参加している神々はそれぞれに事情があって司に称号を与えられなかった。


 藍大達新神はまだ人に称号を与えられる訳ではないから、残念ながら何もできない。


 正確には藍大は自身の従魔に対してのみ称号を付与できるが、司は従魔じゃないのでこの場において舞達と変わらないのだ。


「話は聞かせてもらった」


 その声が聞こえた瞬間、夢の神域に光が生じてそこから槍を携えた金髪碧眼のイケメンが現れた。


「ルー、参加しないと言っておったじゃろう。気が変わったのかの?」


「そうだ。E国人はいつまで経っても私の神域の試練を突破できないからな。だったら息子が手にした槍の片割れを所有する者に力を授けてやろうかと思った。どんな奴がアナザーゲイボルグを手にしたんだ? 魔神の関係者なんだろう?」


 藍大とルーは初対面ではない。


 邪神討伐後、エルに<光神罰パニッシュオブルー>を与えてくれたお礼をするために一度対面していたのである。


 藍大はスマホを取り出して司の写真をルーに見せる。


「これがアナザーゲイボルグを手に入れた広瀬司だ」


「ほう、可愛い女子おなごではないか。加護を授けてやるか」


「司は男だぞ」


「魔神よ、私を謀る気か? この者は並の女子よりも可愛いぞ」


「だが男だ」


 藍大が嘘じゃないとルーの目を見て頷けば、ルーは他の神々の方を見て本当なのかと訊ねる。


「司は男じゃぞ」


「男だな。ひょろいようで力もある」


「神は死んだ」


「ルー、落ち着くのじゃ。其方自身が神じゃろうが」


 司が男であるとようやく理解したルーは現実が非情であることを知って膝から崩れ落ちた。


 それを見てニヤニヤしたバステトがルーに近づいてその肩を叩く。


 振り返ったルーに対してバステトは追い打ちをかける。


「ねえねえどんな気持ちニャ? 美人だと思ったら男だったって知ってどんな気持ちニャ?」


「黙れ猫風情が!」


「ニャア!? 危ないニャ! こんな所で槍を振り回すんじゃないニャ!」


「煩い! 司に”ルーの巫女”の称号を与えてしまったんだぞ! 急いで直さねば!」


 (司が寝てる時間で良かった。起きてたらしょぼくれてただろうから)


 現実世界ではまだ司が寝ている時間だったため、慌ててルーが”ルーの巫女”から”ルーの神子”に称号を修正したから司にはバレていないだろう。


 この話は司には内緒にしてあげようと藍大達は無言で頷き合い、今回の神々の会合は終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る