【Web版】大家さん、従魔士に覚醒したってよ(書籍タイトル:俺のアパートがダンジョンになったので、最強モンスターを従えて楽々攻略 大家さん、従魔士に覚醒したってよ)
第860話 ただのモンスターじゃなくてソロモン72柱です。そして、私は神です
第860話 ただのモンスターじゃなくてソロモン72柱です。そして、私は神です
「Let's cook ダンジョン!」当日、収録のあるテレビ局の楽屋に藍大と舞、リル、ゲンは早めに入った。
「いよいよだね~」
『ご主人、雑食神がヤバい食材を使おうとしてたらちゃんと摘発してね』
「わかってるって。俺だって舞やリルと一緒に食べるんだから、これはちょっとって思うような食材はNGにさせてもらうさ」
舞はテレビ番組であることを意識すると緊張するから、今日は腕自慢の料理人達の料理を食べに来たと思い込むようにしている。
それに対してリルはMOF-1グランプリでテレビ慣れしているので、雑食神がやらかさないように釘を刺してほしいと藍大に頼む余裕があった。
藍大もリル同様に余裕があり、雑食神がヤバい食材を持ち込んでいたら使わせないようにすると言った。
ゲンは既に<
そこにコンコンと楽屋のドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
「失礼します。魔神様、『Let's cook ダンジョン!』の大会参加者が全員楽屋に入りました。恐れ入りますが、持ち込まれた食材の審査をお願いいたします」
「わかりました」
番組のディレクターから時間になった旨を告げられ、藍大は舞とリルと別れて食材の審査に向かう。
ADではなくディレクターが藍大を迎えに来た理由だが、ADができる仕事でも藍大をADに任せるのは藍大に失礼だと判断してのことだ。
それに加え、ディレクター自身も変な食材を持ち込もうとする参加者がいないかその目でチェックしておきたい気持ちもあった。
「最初は”ブルースカイ”の速水秀さんの部屋に行きます」
「エントリーナンバー順に審査するんですか?」
「その通りです。早速お願いします」
秀の楽屋に到着し、ディレクターがノックしてからその中に入る。
藍大もその後に続いて秀の楽屋の中に入った。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
秀は気障っぽく髪をファサーッとしながら挨拶をした。
相変わらずこういった仕草を恥ずかしがらずにやって見せるのだから、大したメンタルの持ち主である。
しかし、藍大も秀よりもずっとぶっ飛んだ者達と付き合いがあるのでこの程度では動じない。
早々に食材の審査を始めることにして、秀に収納袋から使う食材を見せてもらった。
「どうですか? 今回は前大会の反省を生かしてレアリティで負けないようにしましたよ」
「そのようですね。”ブルースカイ”の力を感じるラインナップです」
”ブルースカイ”の財力とコネを駆使して集めたのだろうと藍大は食材の種類と質を見て察した。
秀がドヤ顔になるのも頷ける食材ばかりであり、前回の大会で優勝を逃したことが相当悔しかったに違いない。
雑食神と違って使用NGな食材はなかったため、藍大は問題なしと判断した。
「何を作るつもりか訊かないんですか?」
「ネタバレされたら面白くありませんからね。本番での発表を楽しみにしてます」
「わかりました。アッと驚かせて差し上げましょう」
審査が終わったので藍大とディレクターは秀の楽屋を出た。
次に向かったのは”雑食道”の伊藤美海の楽屋だ。
夫婦揃っての参加だけれど、今回はお互いに参加者なので別々の楽屋で待機することになっている。
ディレクターがノックして藍大達は美海の部屋に入る。
「魔神様おはよう! ディレクターもおはよう! 選りすぐりの食材を審査してくれよな!」
美海は待っていましたと言わんばかりの勢いで収納リュックから今日使う予定の食材を取り出した。
いくつかある食材の中でも藍大の注意を惹くのは肉の塊だった。
「ほう、トリニティワイバーンの肉じゃないですか」
「狩人に頼んで納得のいく肉が手に入るまで何度も倒しては解体したんだぜ」
「その拘りでどんな料理ができるか楽しみにしてますね」
「おう。美味くてほっぺたが落ちる料理を作ってやるぜ」
美海はやる気満々であり、藍大は贔屓することはできないので心の中で頑張れとエールを送りつつ彼女の楽屋を出た。
(さて、隣の楽屋が問題だな)
美海の次に向かう楽屋は雑食神の楽屋である。
正直、全参加者の中で唯一不安なのは雑食神だ。
雑食神の審査さえ終わらせればそれで終わりといっても過言ではない。
ディレクターがノックして楽屋に入ると、雑食神とディアンヌが糸でぐるぐる巻きになっていたウヴァルを取り出す作業をしていた。
これにはディレクターも慌てて声が大きくなる。
「ちょっと雑食神様! 何やってるんですか!?」
「ご覧の通りですよ。窒息させたばかりのウヴァルを糸玉から取り出して解体するところです」
「楽屋でそんなことしないで下さい! どこの世界に楽屋でモンスターを解体する人がいますか!」
「ただのモンスターじゃなくてソロモン72柱です。そして、私は神です」
(流石雑食神。常識のある者にできないことを平然とやってのける)
『痺れない・・・。憧れない・・・』
藍大の心の中のコメントを察知したのかゲンがその後に続いたが、まったくもってその通りである。
「雑食神、それはやり過ぎですよ」
「新鮮なウヴァル肉を使いたくてうっかりしちゃいました」
「収納鞄があるじゃないですか。それに入れておけば新鮮なウヴァル肉を提供したいのなら、余計に収納鞄に入れておくべきだったんじゃ・・・」
「パフォーマンスとして一部スタジオで放送中に解体したいのですがどうでしょう?」
新鮮さを求めるという論法では藍大に勝てないと判断し、雑食神はアプローチ手法を変えて来た。
「スタジオで解体するなんてとんでもない!」
ディレクターは雑食神の自由な発想に衝撃を受けた。
何をどうすれば絞めてあるモンスターを生放送で解体して肉料理にしようとするのだろうか。
雑食神の態度を見てディレクターは信じられないと驚愕した。
それを見てニッコリと笑う雑食神が収納袋から肉の塊を取り出す。
「と言われると思ったのでここに解体したウヴァルの肉があります」
「解体前のお肉は後でスタッフが美味しくいただくから安心して」
(ディアンヌ、違うんだ。そうじゃないんだよ)
食材を大切にするのは大事だけれど、ディレクターがツッコミを入れたのは食材が勿体ないからではないから藍大が心の中でやんわりツッコんだ。
この楽屋にいるとディレクターが驚き疲れてくたくたになりそうだったから、他の食材を見せてもらって問題がないことを確認してから藍大達は雑食神の楽屋を出た。
4人目の参加者である進藤綾香の楽屋では、常識的な食材の持ち込み検査でディレクターが心底ホッとしていた。
「逢魔さん、ディレクターさんはどうしたんですか?」
「ここの前に審査したのが雑食神ってことで察してくれ。食材のネタバレはできないからな」
「あっ、はい。お疲れ様でした」
綾香は雑食神というワードを聞いたことで、ディレクターが自分の持ち込んだ食材の審査でホッとしている理由を察した。
雑食神はやはり尋常ならざる存在として認知されているようだ。
綾香が持ち込んだ食材は”迷宮の狩り人”のダンジョンで手に入れたモンスターのものばかりであり、今日この場に持ち込んだ物は彼女があれこれ試した努力を感じさせた。
「審査員長って立場だから本番では公平に点をつける。だから、実力で俺を唸らせてくれ」
「わかりました! 頑張ります!」
「よろしい」
藍大は少し休んで落ち着いたディレクターと共に最後の楽屋に向かった。
その楽屋にいるのは千春である。
今までテレビ番組に出ることはなかったが、その料理の腕前はちみっこ調理士という二つ名がつくぐらい有名だ。
そんな千春は茂のコネで集めた食材を藍大の前に並べた。
「気合十分ですね、千春さん」
「勿論です。逢魔さん、今日という日をよく覚えといて下さい。今日は私の二つ名がちみっこ調理士から変わる記念日になるんです」
それはないだろうと思ったけれど、千春の希望をわざわざ潰すことなんてできないから藍大は笑って誤魔化した。
参加者全員の食材を確認し、使用NGの食材がないとわかれば藍大の審査は終了だ。
出番が来るまでの間、藍大は自分の楽屋に戻って舞とリルと共に今日の「Let's cook ダンジョン!」放送を前に盛り上がっている掲示板を確認した。
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