第829話 優月は私の全て。かけがえのない存在

 翌日、藍大は青島遥に頼まれて優月とユノのインタビューに同席していた。


 遥は週刊ダンジョンの編集長の出世によって副編集長から編集長に昇進しており、昇進後初めての記事で優月とユノについて取り上げたいと藍大に頼み込んだ。


 ユノがLv100に到達し、ナギも昨日の遠征でLv70まで成長した今、優月にちょっかいをかけようとする者はいないだろうと判断して藍大はその話を受け入れた。


 勿論、優月とユノが受けたいと言えばという条件付きだったが、両者ともインタビューにノリノリだった。


 藍大が掲示板やニュースで取り上げられており、自分の父親とその従魔達のすごさを世界が知っていることを嬉しく思っているけれど、自分達のことも世界に知ってもらいたいと思っているからである。


 テイマーサミットの模擬戦で注目を浴び、二つ名まである優月とユノは自分達のことも周りに知ってもらおうと考えているらしい。


 基本的にインタビューを受けるのは優月とユノで、藍大は質問された時だけ自分が答える前提でインタビューに臨んでいる。


 当然のことながら、藍大の膝の上には小さくなったリルがスタンバイしており、いつでも撫でてくれて構わないという態度である。


「本日はお時間を取っていただきありがとうございます。逢魔さん、優月君、ユノちゃん、今日はよろしくお願いします」


「よろしくおねがいします」


「よろしく」


「よろしくお願いします」


 (キリッとした表情の優月が可愛い)


 優月はインタビューに緊張する様子がなく、ちゃんと受け答えして大人っぽく振舞おうと姿勢を正してキリッとしている。


 その様子が堪らなく可愛いので、藍大は優月を見て優しく微笑んだ。


「今日は私が予め用意した質問を皆さんに訊き、それに答えてもらう形でインタビューを進めます。よろしいですか?」


「「「はい」」」


「ありがとうございます。それでは最初は優月君に質問です。優月君にとってユノちゃんはどんな存在か教えて下さい」


 遥の質問を聞いてユノがとても期待した目を優月に向けた。


「ユノははじめてのじゅうまです。ぼくのたいせつなパートナーであり、たよりになるあいぼうでもあります。だいすきです」


「もう、優月ってば。私も大好き」


 優月の回答を聞いて嬉しくないはずがなく、隣に座っていたユノは優月を自分の膝の上に移動させて抱き締めた。


 ユノの表情はとても幸せそうであり、優月の回答は満点のものだったと言えよう。


「優月君とユノちゃんは本当に仲良しさんですね。では、新しく従魔になったナギちゃんはどうですか?」


「ナギはぼくのかぞくです。からだがおおきくなってもあまえんぼうなんです」


「確かにナギちゃんは優月君を見つけるとすぐに近寄って甘えてますよね。見てて微笑ましく思います」


 (それな。優月がテイマーしてるのを見ると微笑ましいんだよ)


 藍大は遥の言い分に心の中で賛同した。


「ずっと優月君に質問してるとお待たせしちゃうので、今度はユノちゃんに質問させていただきます。ユノちゃんにとって優月君はどんな存在ですか?」


「優月は私の全て。かけがえのない存在」


「ユノちゃんは優月君のことが大好きですよね。今も優月君を抱き締めたままですし」


「優月と一緒にいる時にしか摂取できない成分がある」


「その成分とはなんでしょうか?」


「ユヅキニウム」


 (うん、サクラが俺から摂取するような感じでユノも優月から摂取してるね)


 藍大はサクラが自分を抱き締めたまま何かを摂取しているような感じがしたため、一体何をしているのかと訊ねたことがある。


 その時の回答がアルジニウムだった。


 サクラと似通った点が見られるユノにおいても、自分の主からしか摂取できない成分を堪能しているのは間違いなかった。


 遥はユノが言っている意味をいまいち理解できなかったため、困ったように藍大の方を向いた。


 藍大もアルジニウムやユヅキニウムについて真面目な顔で回答するのは恥ずかしかったので、どうしたものかと思っているとそこでリルが口を開く。


『僕達従魔は自分の主と触れ合って落ち着きたいんだよ。目に見えない概念だし分子構造なんかもわからないけど、ご主人と一緒にいることで充足感が得られるのはアルジニウムやユヅキニウムのおかげだと思うな』


「なるほど。主人と従魔が触れ合ってる時に従魔だけが感じ、リラックスさせられるものがアルジニウムやユヅキニウムなんですね?」


『大体合ってる』


「リルさん、補足説明していただいてありがとうございました」


 リルの補足説明を聞き、遥はなんとなくユノが言わんとしていることが理解できたようだ。


 それから遥は優月の方を向いた。


「さて、次は優月君に質問しますよ。ズバリ、優月君の尊敬する冒険者は誰ですか?」


「おとうさんです」


「優月・・・」


『ワフン、優月はよくわかってるね』


 藍大が嬉しそうにしていると、その膝の上に乗っているリルはわかっているじゃないかと頷いていた。


「もうちょっと詳しく訊かせて下さいね。優月君はお父さんのどこを尊敬してますか?」


「そんけいするところはいっぱいあります。つよくてやさしくてたよりになるし、せかいもすくいました」


「その通りだと思います。優月君はお父さんが素敵な人で良かったですね」


「はい!」


「・・・今日の夕食は優月の好きな物にしてあげるからな」


「わ~い!」


 優月にべた褒めされた藍大が自分にできる感謝の伝え方を口にすれば、優月は今まで頑張って大人っぽく振舞っていたのに等身大の子供に戻っていた。


『うんうん。ご主人に好きな物を作ってもらえるって聞いたらそうなっちゃうよね』


 リルはわかるぞと力強く頷いていた。


「ちなみに、優月君の好物はなんですか?」


「チーズインハンバーグカレーです!」


「それは絶対に美味しいですね」


「はい! おとうさんのごはんがせかいいちです!」


「ほ、褒めたってデザートにフルーツロールケーキが付くだけなんだからねっ」


「お義父さん、ゴルゴンママみたいになってるよ」


 ユノが藍大の口調にゴルゴンっぽさを感じて冷静にツッコんだ。


 実際のところ、ユノも藍大の料理を気に入っているから優月みたいにわかりやすくないが喜んでいる。


 遥は思わず「Let's eat モンスター!」の取材をそのまま行いたくなったが、今日はあくまで優月とユノに対するインタビューがメインなのでグッと堪えた。


「オホン、脱線させてしまいすみませんでした。では、ユノちゃんが尊敬する従魔は誰でしょうか?」


「筆頭従魔としての在り方ではサクラママ。探索や分析ではリル先輩。戦術やダンジョン関連の知識ではブラド師匠。他にもいろんな観点で尊敬してる従魔はいるけど、特に尊敬してるのはサクラママとリル先輩とブラド師匠」


 (良かったな、リル。ちゃんと尊敬する従魔に入ってたぞ)


 ユノに名前を呼ばれて静かに尻尾を揺らすリルを見て、藍大はその頭を優しく撫でた。


 だがちょっと待ってほしい。


 ブラドと同じくダンジョンを管理しているはずのモルガナの名前が呼ばれていない。


 やはりゲンに釣られて怠惰に暮らしていると、ユノから尊敬してもらうのは難しいようだ。


 いや、ゲンは藍大の護衛役として役に立っているからモルガナよりも尊敬されているだろう。


 働かねば尊敬してもらえない。


 ニートに対する視線が厳しくなるのは仕方のないことである。


「尊敬する従魔が身近にいることは良いことですね。それでは、お待たせしました逢魔さん。逢魔さんにとって優月君の現状と将来性について教えて下さい」


「わかりました。優月はテイムした従魔をじっくりと育てる質を重視するタイプです。それゆえ、ユノはテイマーサミットでCN国のテイマーを模擬戦で倒す活躍を見せましたよね。ナギも昨日の遠征でLv70になりましたし、ユノと肩を並べる存在になって優月を守ってくれると信じてます。優月がどんな時も自分の従魔を大切にしたままでいれば、きっと優れた竜騎士になるでしょう」


「ありがとうございます。確かに、テイマーの中で優月君の従魔の数は圧倒的に少ないですけど、CN国のルーカスさんを模擬戦で倒しましたよね。あの戦いで注目を集めるようになりましたし、今後の優月君やユノちゃん、ナギちゃんに期待ですね。インタビューは以上とさせていただきます。ありがとうございました」


「「「ありがとうございました」」」


 こうしてインタビューは無事に終わった。


 藍大達はこのインタビュー記事が週刊ダンジョンで掲載されるのが今から待ち遠しかった。

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